「いる」を見つめなおそう
2022年06月14日
『誰だってneed youだってneed you だってneed youだ』ではじまる緑黄色社会の「キャラクター」という歌をご存じだろうか。ご存じなければ、まずは聴いてみてほしい。
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不安定で不透明な時代、自分に自信が持てない。でも頑張ってとはいってほしくない。怒られるのはまっぴらだが変に褒められるのもイヤ。かまってほしくはないが孤独にしないでほしい。そんな揺れ動くアドレセンスに寄り添う名曲だと思う。
リフレインされるメッセージは人間の存在自体への賛美と強烈な肯定だ。「あなたならできる系」でもないし、「ナンバーワンじゃなくてオンリーワン系」とも少し違う。
国立青少年教育振興機構の調査によると日本の高校生の自己肯定感は依然として低い。米国、韓国、中国では軒並み80%以上だが、日本は50%以下。大人たちは「そんなことないよ、キミにも良いところはある。自信を持とうよ」と上から目線で励ますに違いない。でも最近のチルい連中には刺さらない。「80%以上が良くて50%以下が悪いって誰が決めたのよ?」目もあわせようともせず眠そうな顔で彼らはきっとそうつぶやくだろう。
『こんなんでいいの?何でいいの?って…/間違ってないし合ってないし愛すべきなんだ/ 君のために光がそそぐよ』
「キャラクター」(作詞:長屋晴子・小林 壱誓)
自己肯定感自体を否定し、「いる」に光をあてる。アドラーの言葉ともシンクロする。良し悪し、あっちこっちとラベルを貼りあい、一方的に「そういうもんだろう」と押しつけてしまいがちな昨今、『間違ってないし合ってないし愛すべきなんだ』は多くの人の心に響くだろう。
『誰かになりたくって/君はまた後悔/ダメダメの目配せ/効かないアドリブ/流れない涙』
『台本は閉じて/君でいてみせて/ケセラセラ』
「キャラクター」(作詞:長屋晴子・小林 壱誓)
受験会場で、そして就活の面接会場で自分を見失いそうになる。ガクチカという魔物に翻弄される自分は自分なのか。台本は閉じたい。でも怖い。そんな想いを抱えて日々を過ごしている若者(このいい方もどうかと思うが)も多いだろう。でもよく考えると、試験問題を作成する大学関係者、したり顔の面接官だって似たようなものだ。
『自分が自分でいられなくなる/“わたしはどこでここはだれだ”』(傍点筆者)
「キャラクター」(作詞:長屋晴子・小林 壱誓)
いいたいこともいえず、組織圧のなかでもがく大人たちの心の叫び。そう感じたのがこの一節。試験問題も採用活動も所詮大人たちの妥協の産物に過ぎない。
『自分が自分でいられなくなる』大人たちが属する日本企業。その従業員エンゲージメントは23ヵ国中、最下位が過去6年続く(米コーン・フェリー、2020年~21年)。
企業で働く私たちも自らの存在自体、すなわち「いる」を見つめなおすことが必要ではないだろうか。まずはそこから始めたいものだ。
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- 執筆者紹介
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コンサルティング企画部
主席コンサルタント 林 正浩
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