「育児しながらのテレワーク」では育児と仕事の両立は難しい

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2020年12月21日

  • 矢澤 朋子

11月から多くの自治体で学童クラブの入所申し込みが始まった。学童クラブとは、労働などのため保護者が家庭にいない小学生が放課後にすごす遊びや生活の場である。筆者も子どもの来年度の入所に向けて申請案内を確認していたが、入所基準の一部が変更されていることに気付いた。緊急事態宣言以降、筆者は在宅勤務と出社を併用しているが、テレワークの利用頻度が高い就業者の子どもは学童保育への入所が難しくなっていたのである。

学童クラブの入所基準は自治体ごとに異なるが(※1)、基本的に自宅での保育が困難なほど高いポイントを付与され、合計ポイントが高い順から入所を許可される。保護者の就労のため学童クラブへの入所を希望する場合は、就労場所(自宅外/自宅内)、1カ月の勤務日数、1日の就労時間、午後の時間帯の就労時間、深夜勤務の有無などが基準となる。就労場所については、自宅外就労の方が自宅内就労より付与ポイントが高く設定されていることが多く、筆者が入所申し込みをした自治体ではテレワークの利用頻度が高い場合は自宅「内」就労と認定され、付与ポイントが低くなる。その他のいくつかの自治体でも同様のケースが見られ、「在宅勤務日は利用を控えてください」と明示している自治体もあった(※2)。

パーソル総合研究所が実施した調査によると、子ありテレワーク実施者の42.1%(うち未就学児ありの就業者は64.4%、小学生ありでは57.1%)は働きながら子どもの世話をしなければならないことが負担であると回答している(20年5月調査)(※3)。「テレワークは育児との両立に効果的である」という意見がよく聞かれるが、育児との両立に効果的なテレワークとは「子の保育場所を確保した上でのテレワーク」であり、「育児しながらのテレワーク」ではない。

「育児しながらのテレワーク」では出社時もしくは本来のテレワーク(出社はしないが、その他勤務条件は出社時と同じ)と同水準の生産性を保つことは難しい。この点に配慮しなければ、テレワーク全般の生産性が誤って低く評価される恐れがある。その結果、コロナショックで急激に高まったテレワーク普及の勢いが弱まり、これまで徐々に形成されてきた柔軟な働き方が後戻りしてしまうことも考えられる。しかし、テレワークは異なる状況にある人々がそれぞれに合った働き方を可能とする有効な手段の一つであり、後戻りさせてはならないだろう。

今春以降のテレワークの普及により、社会に内在していた「在宅だから(自宅でしか行えない)家事や育児も同時にできるはず」という思い込みが是正されつつある。これを機に、自宅外就労と自宅内就労の付与ポイント格差など従来型の思考に基づいた入所基準を現実に合わせて見直すべきであろう。また、政府は学童クラブの拡充(※4)を進めているが、その進捗を上回るペースでニーズが高まっている。子を持つ親が安心して働けるよう、保育園だけでなく学童クラブにおける待機児童解消も喫緊の課題である。

(※1)判断基準を記載した文書がないケースもある。また、自治体以外に施設(学童クラブ)が入所の判定をするケースもある。
(※2)入所自体を認めていないわけではない。

(※4)政府は「新・放課後子ども総合プラン」を18年9月に公表し、18年度末~21年度末の3年間で学童クラブの受け皿を約25万人分整備し、待機児童数をゼロにする目標を掲げている。

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