環境分野の「バーゼル」

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2020年12月14日

  • 田中 大介

入社後、先輩方が使うバーゼルという言葉にしばしば戸惑いを覚えたものだ。よくよく話を聞くと、筆者の認識とは全く異なる意味で使われていたのである。

一般に、金融関係者がバーゼルという言葉から連想するのは、銀行の自己資本比率や流動性比率等の国際基準を定めたバーゼル合意(規則)だろう。ただ、環境分野の人間からすれば、バーゼル条約が頭に浮かぶのではないだろうか。事実、入社直後の筆者もその一人であった。

バーゼル条約の正式名称は、有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約である。文字通り、有害廃棄物に関する条約であり、奇しくも、バーゼル合意が最初に策定された1988年の翌年(1989年)に採択されている。

条約の概要は以下の通りである。
① 有害廃棄物等を輸出する際の輸入国・通過国への事前通告、同意取得の義務付け、非締約国との有害廃棄物の輸出入の禁止
② 不法取引が行われた場合等の輸出者による再輸入義務
③ 規制対象となる廃棄物の移動に対する移動書類の携帯義務等

2019年5月頃に行われたCOP(締約国会議)では、新たにプラスチックごみを規制対象とすることが決められており、海洋プラスチック問題と縁深い条約でもある。

ここまでバーゼル条約について種々説明したが、お気づきの通り、金融関係者が業務上で知る機会はないに等しい条約である。

ただ、昨今、ESG投資やグリーンファイナンスに代表されるように、金融分野と環境分野が密接な関係を築きつつあることから、金融関係者が環境分野の文献を読むことも増えてきた。その際、筆者がバーゼルという言葉で困惑したように、各々の分野における常識や共通言語が異なるがゆえに、ミスコミュニケーションが生じることも懸念される。両分野に携わる者として、今後もこのような誤解が生じる余地のない情報発信を続けていきたいものである。

なお、環境分野におけるソックスは靴下ではなく、硫黄酸化物であるSOxを指すなど、バーゼル以外にも誤解が生じ得る単語はいくつかあるので、ぜひとも弊社のレポートやコラムなどを通じて理解を深めていただければ幸いである。

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