コロナ禍の丁寧な家計簿記入が消費統計をかく乱?

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2020年11月16日

  • 山口 茜

2020年11月16日に7-9月期のGDP1次速報値が公表される。なかでも4-6月期に緊急事態宣言を受けて大きく落ち込んだ個人消費がどの程度回復するかが注目される。

消費動向を把握するための統計として、総務省「家計調査」などの需要側統計と、経済産業省「商業動態統計」などの供給側統計がある。両者の動きを比較すると、コロナショック以降、特に緊急事態宣言中に需要側統計の強さが目立つ。

需要側統計である家計調査はサンプル数が少ないため、自動車や家電等の高額で購入頻度が低い品目への支出によって振れやすく、それが供給側統計の結果との差異につながった可能性がある。しかし、緊急事態宣言中の需要側統計と供給側統計の差は、それだけでは説明しきれないほど大きい。下図は家計調査における「耐久財を除く財への支出」と商業動態統計における「自動車小売業・機械器具小売業を除く小売業販売額」の前年比伸び率を示したが、サンプル数の影響を受けにくい品目に絞っても、家計調査に見る消費の基調は商業動態統計のそれよりも強いことが分かる。

その理由として、調査票である家計簿の記入が普段以上に漏れなく行われたことがあるのではないかと筆者は考えている。家計調査は調査内容の細かさ故、回答者の負担が重いという問題がしばしば指摘されるが、緊急事態宣言中は外出を自粛したことで、いつもより時間にゆとりのある人が多かったとみられる。また家族全員で過ごす機会が増え、財・サービスの購入先が絞られたことで、世帯全体の消費行動を把握しやすい状況にあったと考えられる。

家計簿の記入漏れが一定程度発生するとしても、その割合が安定していれば、家計調査で把握される消費の基調に与える影響は限定的である。しかし、緊急事態宣言中のみ家計簿の記入がより正確に行われたことで、宣言前の消費額との間に段差が生じれば、同調査が示す消費の基調に影響を与えることになる。実際、緊急事態宣言中に見られた需要側統計と供給側統計の大きな差は、経済活動が再開された6月から縮小傾向にある。

GDPの速報値は、家計調査を含む需要側統計と供給側統計を基に推計される。一方、翌年度の12月に公表されるGDPの確報値は、基本的には供給側統計を用いて再推計される。GDPベースの個人消費を月次で捉えられる指標として、速報値の推計方法に基づいて作成されている内閣府「消費総合指数」と、確報値のように供給側統計から作成されている日本銀行「消費活動指数」が挙げられるが、緊急事態宣言中に見られた消費総合指数の落ち込みは消費活動指数よりも浅かった(※1)。GDP速報値段階の4-6月期の個人消費は実態よりも強い数字の可能性があり、2021年末に公表される確報で下方修正されるとみられる。

需要側統計と供給側統計の比較

(※1)2指標の乖離の要因として、消費総合指数が家計最終消費支出ベースであるのに対し、消費活動指数は家計最終消費支出(除く持ち家の帰属家賃)ベースであることも挙げられる。ただしその影響を調整しても、緊急事態宣言中に見られた消費総合指数の落ち込みは消費活動指数よりも浅かった。

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