新型コロナウイルス感染症の流行に伴うロシアの人口動態の変化

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2020年10月07日

  • シニアエコノミスト 菅野 沙織

ロシア政府は、20年上半期の人口動態データの発表と同時に、新型コロナウイルスの流行による20年の人口への影響についての予想を示した。

ロシア連邦統計局のデータによれば、20年上半期の人口自然減は26万5,500人(出生者数が68万1,000人、死亡者数が94万6,500人)となっており、新型コロナウイルスの影響もあって、死亡率(人口1,000人当たり死亡者数)が前年比3.1%上昇した(20年が人口1,000人当たり13.0人、19年が同12.6人)のに対して、出生率(人口1,000人当たり出生者数)は6.0%低下した(20年が同9.3人、19年が同9.9人)。出生率の低下は新型コロナウイルスと直接関係はないが、同ウイルスの影響による経済の先行きへの不安が今後もしばらく残るならば、向こう1~2年は出生率が低い状態が続くと予想される。19年の合計特殊出生率(一人の女性が一生の間に生む子どもの数)は1.5と依然として低水準である。

ロシア政府の予想によれば、20年のロシアの人口減少は新型コロナウイルスの影響で昨年の5倍にのぼる見通しである。20年の人口は15万8,000人減と見通されており、減少幅は06年(37万4,000人減)以降最大となる模様である。人口減少が加速した背景には新型コロナの影響で死亡者が増加したこともあるが、それより大きな要因は国境閉鎖による移民の急減である。

実際、政府が新型コロナ対策として3月末に国境を閉鎖したことで、移民流入にも大きな影響が表れている。20年1-6月期の外国人流入数は4万8,800人に留まり(19年は13万4,000人)、上半期の人口自然減の18%しか補われなかったことになる。政府は20年の外国人流入数を18万8,000人と予想しているが、これは19年の28万5,000人を大幅に下回る数字である。サービスや建設など低技能労働者を必要とするセクターの企業はこれまでウクライナ、ベラルーシ、中央アジアからの労働者に大きく頼っていたため、外国人流入数の減少が経済回復のスピードを遅らせる可能性があることも否定できない。

一方、今年にはロシア国籍の取得手続きが簡素化された(例えば、ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタン、モルドバからの移民、ロシア人と結婚した移民、ロシアの大学の卒業生などが以前と比べてより簡単な手続きでロシア国籍を取得することが可能になった)こともあって、ロシア国籍取得者の数は新型コロナのパンデミックにもかかわらず増加している。

19年はロシア国籍を取得した外国人が50万人であったのに対し、その数は20年上半期末時点ですでに30万人に達している。

少子化問題に直面しているロシアでは、政府が家庭を支援するあらゆる対策を実施しているにもかかわらず、人口動態は移民の動きに大きく左右されるという実態が今回のパンデミックで浮き彫りになったといっても過言ではない。こうした中で、ロシア政府にはよりしっかりした移民への対応や支援が求められている。

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