バズワード

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2020年07月30日

  • 中沢 則夫

意味を厳密に定義することなく、曖昧かつ広く使われる言葉。バズワード(Buzz Word)。

近年この「バズワード」が隆盛を極めている。日常会話のみならず、ビジネスの場面でも、さらには活字メディアでもブンブン飛び回っている。使っている本人もそれがバズワードであることに気付いていないことも少なくない。例えば、「AI:人工知能」という言葉を目にしない日はない。ほかにも、「IoT」、「イノベーション」、「DX」、「ダイバーシティ」、「コンプライアンス」など。最近はやりの「〇×テック」もそうだ。どうも横文字と相性がよさそうだが、漢字にもある、「提携」、「事態」、「戦略」、「方針」、「世論」など。

こうした風潮は、現代社会が「時間軸が重要な要素」になってきたこと、コミュニケーション技術が進展し、「瞬時に情報がやり取りされる場面」が増えてきたこと、と関連している。熟考や十分な調査よりも、短いフレーズやキーワードによる理解の重要性が高まっているのだ。

こうしたバズワードの使用には功罪両面がある。新しい概念、新しいビジネスなど既存の言葉遣いでは表現しきれないもの、特に日々進化発展を遂げている現象を議論・伝達するためには、バズワード的なアプローチが不可欠である。本質を掘り下げ、厳密に定義し、的確な言葉を吟味するという悠長なプロセスを経ていては、目前に展開する事態は次のステージに移ってしまう。

また、目や耳に心地いい言葉<かっこいい言葉>がバズワード化することが多く、浸透力にも優れている。このため、エンターテインメントや商業広告、政治的なプロパガンダには適している。

一方で問題も多い。バズワードは、いくつかの類型に分けられる。【第1類型】同じ言葉を使いながら、話し手Aと聞き手Bとがそれぞれ別の概念として理解している場合(例えば、「提携」)。【第2類型】話し手Aと聞き手Bの両方がほぼ同じ概念を共有しているが双方とも本質的な誤解をしている場合(例えば、「イノベーション」)。【第3類型】そもそも曖昧な概念の言葉を、話し手A・話し手Bのどちらも意味がよく分からないまま使っている場合(例えば、「DX」)。

いずれの類型でも会話が順調に進んでいると、「よく理解している。」あるいは「ちゃんと意思疎通ができている。」という幻想が起きる。いわゆる「言語明瞭・意味不明」状態。さらに、「本当は分かっていないのだが、いまさらこの言葉の意味を聞くのは恥ずかしい。だから分かったふりをしてやり過ごそう。」という心理が働くのも自然なことだ。しかしその結果、誤解が増幅することになる。

情報の出し手がバズワードを悪用する場合もある。「的確に表現することで受け手の了解を得られなかったり不安を与えたりすることを恐れ、あえてバズワードを使って煙に巻く。」、「受け手が誤解していることに気付いているが、それを正すと自身の不利益になるので放置する。」など。

最も警戒すべきことは、「分かったつもり」が習い性になって「思考停止」に陥ることである。日常会話で、愛を語り、和ませる、という場面なら微笑ましいことかもしれない。しかし、重要なビジネスの局面での判断や、まして公共政策を左右するような場面であれば、冗談では済まされない。

TPOと功罪をよく見極め、適切に使い分けをしたいものだ。同時に情報の受け手としては、聞き流さないよう、よくよく注意を払う姿勢が求められる。

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