コロナショックが迫るコーポレートの再定義

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2020年07月08日

  • 大川 穣

コロナショックにより上場企業の明暗は大きく分かれ、ゲームチェンジもくすぶる中、さらなる機構改革の必要性を感じている企業は少なくないだろう。

中期経営計画の公表や進捗発表を延期する企業が相次ぐ中、5月19日、ソニーはグループの経営機構改革の実施を公表した。現在のソニーはグループ本社機能とエレキ事業の本社間接機能を有しているが、これらの機能を分離・再定義し、「ソニーグループ株式会社」はグループ本社機能に特化した会社となる。本社はエレクトロニクス事業の間接部門を切り離すことで、エレクトロニクス、エンタテインメント、金融等の多角化戦略を担うことになる。

ソニーは創業から60年経過した今、本社の組織を大きく変えることになったが、同社の歴史を振り返るとしばしば危機に見舞われ、その都度、経営体制を改めてきた。1983年に事業本部制を導入。1990年代以降、グローバル化とデジタル化が急速に拡大し、1994年にカンパニー制へ経営形態を大きく変更している。2003年にはソニーショックが起こり、その後リーマンショックに突入するが、2012年から2014年にかけて構造改革に取り組み、人員削減や資産売却等の痛みを伴う施策を次々と実行した。いつの時代も本社と事業との関係を見直し、本社の役割を変化させてきたのである。

ソニーの吉田CEOは、「多岐にわたる事業をまとめていく会社としてソニーを再定義する必要がある」とコメントしている。ここで、ポストコロナ時代に企業が本社機能を再定義するときの視点について論じたい。
筆者は大きく4つあると考えている。

1つ目は、「らしさ」を書き換え続けること。企業は中長期を見据え活動するが、企業の「らしさ」を再定義する中で生まれた新しい「らしさ」の先に未来のプロダクトやサービスのあり方があると考える。広がりを持たせすぎると分散してしまうし、見方を間違えると固定化してしまう「らしさ」を、原点を見つめつつコントロールすることが求められる。

2つ目は、事業ポートフォリオは維持するのではなく、「替える」という視点である。企業の中には、いずれはやめなければならない事業があるはずであり、きちんと整理し新たな投資に振り向けることが基本である。リーマンショックと対比されるコロナ禍において、事業の整理に取り組んだ企業とそうでない企業ではリーマンショック後と同様明暗が分かれると思う。

3つ目は、「ガバナンス」の視点である。2つ目に関連するが、事業ポートフォリオの入れ替えを実行するに際して、取締役会はスピーディな意思決定を逡巡してはいけない。

最後は、「グループの事業・機能の再配置」の視点である。本社における事業ポートフォリオ経営を徹底するためには、これをサポートするコーポレート機能は強化し、それ以外の機能は徹底的に効率化すべきである。本社の効率化が進めば、そのベクトルはグループ会社にも向けられ、事業単位または機能単位の再編が加速していくことになる。

誰もが予想し得なかった経営の不確実性にどう向き合うのか。コロナショックは日本企業に対して、本社の役割や機能が十分か否か、その真価を問うているのだ。

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