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コロナ禍を機に労働法を見直すロシア

2020年07月01日

シニアエコノミスト 菅野 沙織

20年上半期に原油価格の下落と新型コロナウイルスのパンデミックというダブルパンチに見舞われたロシア経済は、必然的に大きく縮小した。ロシア経済発展省によれば、20年5月のGDP成長率は前年比マイナス10.9%となり、年初から5ヶ月間の成長率は同マイナス3.7%と大幅に落ち込んだ。
新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込めるためロシア全土で実施されたロックダウンは3月末から5月末まで続けられ、多くの企業が休業に追い込まれたが、雇用維持に焦点を当てた政府の対策は一定の効果があったとみられる。

ロシア経済発展省の情報によれば、新型コロナウイルスの感染拡大を受け雇用面で様々な制限がかけられた就業者数は、4月の時点で1,500万人だったが6月半ば時点では同様の条件下で500万人と、4月の3分の1に減少している。また、このように制限が残った形で勤務を続けている労働者の数は6月末に250万人に減少する見通しである。また、小売売上高は5月に前月比15%超増加し、輸送は同30%増加するなど、経済は比較的速いペースで回復している模様である。レシェトニコフ経済発展相によれば、4~5月に連邦予算の支出は前年同期比30%増加し、年初以降は追加で2.5兆ルーブル(3.25兆円相当)が経済に投入されている。同相はまた、「危機以前の水準にはまだ達していないが、状況は4月と比べて改善しており、これは実施中の経済対策と当該対策への資金注入が直接関係している」と強調している。

実際、ロシア政府は雇用維持をはじめ幾つかの経済対策を実施しており、今年4月1日以降は中小企業(SME)向けの特別融資プログラムの下、1,720億ルーブルが金利8.5%で貸し出されているほか、雇用支援プログラムの下でゼロ金利融資を実施することで100万人を超える雇用を支えることが可能となっている。銀行は、実行済みの780億ルーブル相当の融資も合わせて、1,350億ルーブル(1,740億円相当)に相当する5万5千件の融資申請を承認した。
しかし、政府の雇用支援策だけでは新型コロナのパンデミックによる労働市場へのダメージを完全に防ぐことはできないようだ。5月の失業率は6.1%となり、4月の5.8%からさらに0.3%ポイント上昇した。

ロックダウン中、多くの企業が勤務体制を在宅勤務に切り替えるなど、労働形態にもかなり変貌した兆候が散見された。そして、ロックダウンが解除され生活も労働市場も少しずつ正常化している現在、作業現場やオフィスに復帰する労働者は増えているが、在宅勤務に切り替えた結果、生産性が上がった企業も少なくない。そのためロシア国内では、コロナウイルス以前の労働環境に完全に戻す必要はないという考えが官民全般に浸透し始めている。ロシアではリモート勤務という概念は既に労働法に盛り込まれているが、今回はリモート勤務に切り替える際の手続きが簡素化されるほか、一時的なリモート勤務や、リモート勤務と通常のオフィス勤務を組み合わせる複合的な労働形態を定める法案が提出された。

新型コロナウイルス流行に伴い導入された社会的距離戦略など、短期的な措置はあと数ヶ月で廃止される可能性が高いものの、上記のように労働環境が根本的に変えられ、それが法律化されることによる影響は長期間残ると思われる。

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