2020年06月29日
2020年5月25日、ミネアポリス近郊で黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人の警察官によって死亡させられる事件が発生すると、抗議活動は全米50州だけでなく、世界中に広がった。この引き金となったのは、ソーシャルメディア上で拡散された、事件の様子を捉えた動画である。
動画では、居合わせた人々の必死の説得にもかかわらず、警察官が無抵抗のフロイドさんの首を膝で押さえつけ、亡くなるまでの様子が捉えられていた。この衝撃的な映像に対して、視聴者は強い嫌悪感と憤りを覚えた。他にも、米国では新型コロナウイルス感染による黒人の死亡率が白人の2~3倍高いことが明らかになるなど、人々は住環境や医療アクセスの格差といった、構造的差別が根強く残っていることにいや応なしに気づかされた。
公民権運動に代表される人種差別撤廃運動には長い歴史があり、今もその活動には終わりが見えない。今回、フロイドさんの事件を契機に起きた抗議活動において“Black Lives Matter”という言葉が1つの合言葉になっているが、この言葉自体は、2010年代初め頃から使われているようだ。今回は多くの白人も加わり、自らのwhite privilege(白人の特権)の存在を指摘し、自分たちが沈黙することは差別に加担することと同じであると訴えたことが特徴的である。
こうした人種や国境を越える共通価値を背景としたムーブメントは、ソーシャルメディアの台頭も相まって、若者の間で近年活発に見られる。2019年には世界的に気候変動対策を求めるデモ活動が行われた。若者の日々の経済活動(消費行動や求職行動、投資行動など)にも影響を及ぼすとされており、今回もソーシャルメディア上で黒人が経営するブランドを紹介し、商品の購入を通じたエンパワーメントを呼びかける投稿がいくつも見られた。
こうした若者の価値観は資産運用の世界にも無縁ではない。過去にも米国では、ベトナム反戦活動、反アパルトヘイト運動を受けて、年金基金などが武器製造にかかわる企業や、南アフリカ共和国で事業を営む企業(現地白人政権を支えることにつながる企業)に対し、ダイベストメントを行う事例があった。近年のムーブメントを受けて、資産運用の受託者責任において、経済合理性だけではなく、社会的責任が求められるようになる可能性がある。投資先企業側の行動を見ると、今回のフロイドさんの事件に対して、米国の大企業からコメントが発信されるケースが相次いだ。従来、企業が政治的なコメントを発信することはリスクとされてきたが、最近では社会的な問題に対して無関心であることもリスク、という認識が広がっているようだ。
構造的差別は被差別者の経済的不利益を生み、社会全体で見た経済損失は大きい。今回の抗議活動が長い人種差別の歴史の転換点となることを願うばかりである。
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