コロナ・ショックによる最大の被害者とは?
2020年06月16日
5月29日に公表された「労働力調査」(総務省)によると、4月の雇用者数は前年同月比▲36万人と88か月ぶりの減少に転じ、前月比でも▲105万人と大幅な減少を記録した。この雇用者数の減少には、日本人のみならず日本で働く外国人も含まれる。役員を除く雇用者数を産業別でみると、宿泊・飲食サービス業、卸売・小売業、製造業での減少が顕著であったが、これらの産業には外国人労働者が多く従事している。
19年10月末時点、日本在住の外国人労働者は165.9万人である(「外国人雇用状況の届出状況表一覧」厚生労働省)。このうち、宿泊・飲食サービスに12.5%、卸売・小売に12.8%、そして、製造業には29.1%が従事しており、多くの外国人労働者が現在失業もしくは休業を余儀なくされていると推測できる。
失業した外国人(技能実習生は除く)は求職活動が実を結ばない場合、他の在留資格に変更となるか(就労が認められるかどうかは在留資格によって異なる)、在留期限までに日本を離れなければならない(※1)。しかし、日本を含む世界各国で出入国制限が敷かれる中では、帰国もままならない状況であろう。現在は在留資格更新・変更申請や在留カード受領期限の延長が特別に認められてはいるものの、外国人労働者の失業または休業中の生活には大きな不安がある。
もともと、外国人労働者の賃金は日本人より低い。「令和元年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)で所定内給与を確認してみると、外国人労働者は、全産業、製造業、宿泊・飲食サービスのいずれにおいても平均(外国人労働者含む)より低い。また外国人労働者の23.1%は技能実習生であり、その給与はさらに低水準である。外国人労働者の多くは貯えも限られることに加え、失業手当を受給できなかったり(雇用保険未加入)、休業手当が支払われなかったりするケースもあり、困窮する可能性が高いといえよう。
これに対し政府は、1人10万円の特別定額給付金(※2)の給付に加えて、コロナ・ショックにより失業した外国人(※3)に対する特定産業分野(特定技能制度の14分野)への再就職支援など、様々な支援策を決定した。まずはこれらの支援が外国人労働者に確実に行き渡るよう、政府や地方自治体は支援の周知徹底や円滑な手続きの手助けを行い、コロナ・ショックによる最大の被害者が外国人労働者とならないよう尽力してほしい。
また、これを機に外国人労働者の受け入れ態勢及び労働環境の是正を一層推進するべきであろう。人手不足の問題を抱える日本にとって、外国人労働者は今後も不可欠である。コロナ・ショックを、将来の成長につなげるチャンスに転換する施策に期待したい。
- (※1)就労目的の在留資格を持つ外国人は、保持する在留資格で認められた職種で求職活動が可能である。技能実習生は管理団体等が新たな受け入れ先を探すが、見つからなかった場合は帰国しなければならない(在留資格の変更は原則不可)。
- (※2)外国人を含む住民登録をしている者(2020年4月27日時点)が対象
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