仕事は時代と共に ~リモート型社会への挑戦~

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2020年05月28日

  • 佐藤 清一郎

昭和、平成、令和、仕事のやり方は時代と共に変わってきている。きっかけを与えるのは、コンピュータ、アプリケーション、ネットワーク機器等を含め、次々に開発される様々な道具である。こうした道具は、業務処理上の重要なパートナーとして、年々、存在感を高めてきている。

古くは昭和の終わり頃、ワードプロセッサー(いわゆるワープロ)を初めて使い、手書きでない文書が完成したことに、とても感動を覚えた記憶がある。それまでは、オフィスのデスクには機器と呼べるようなものはなく、手書きの原稿を印刷会社に出すと、印刷会社は版下という印刷のための原版を作成して印刷する。それが戻ってきてから赤ペンで修正する作業を何度か繰り返していたので、編集作業は大幅な時間短縮となった。

平成に入り、情報化が叫ばれる中、オフィスのデスクに一人一台のコンピュータが割り当てられた時も、仕事のやり方が変わった。コンピュータがデスクになかった時代は、上司や部下、そして社員同士が、会話を重ねながら仕事を進めることが多かったが、コンピュータ導入後は、社員がコンピュータの前に座って、無言で作業するような光景が多くなり、社内の会話は、かなり減った。その当時、コンピュータでの仕事の経験がない上司は、一日中、ほぼ無言で、じっと机に座っている部下を見て、一体何をやっているのかと言わんばかりの雰囲気を醸し出していたことを覚えているが、こうした上司の思いとは裏腹に、様々な機能を内在したコンピュータの力を利用して、仕事の効率は上がっていたのである。その後も、コンピュータの性能は、年々、向上してきており、業務処理を助ける強い味方となっている。

オフィスのコンピュータ化で力を発揮したのが、今では当たり前となっているインターネットや電子メールである。インターネットというツールは、国境を越えた情報収集力を格段に高めた。それまで、統計などの資料は、主要国の統計局等から国際郵便で取り寄せていたが、統計局のウェブサイトにアクセス可能となったことで、郵送での資料は、ほとんど不要となった。また、レポートや論文等を含め電子媒体として収集できる情報が増加したことで、紙ベースでの資料が減り、オフィススペースの節約につながった。今では普通になった電子メールは、出始めの頃は使い方に戸惑いもあったが、証跡が残るので、社内はもちろん、時差のある海外とのやり取りも非常に便利であった。また、電話と比べて利用料が安いため、電話代節約にもつながった。

新たな機器の導入は、当初は人々に戸惑いを与えるが、一方で、習熟すれば、既存の仕事の効率性を高め、また、仕事の創造を助ける。今回の新型コロナウイルスの件では、人との接触を極力回避する仕事のやり方を追求する中で、様々な道具が登場してきている。デスクにコンピュータもなく、ネットワークインフラも不十分であった昭和の時代に、同じ出来事が起きていたら、業務はどうなっていただろうと想像すると怖くなってしまう、と同時に、技術が生み出す力の凄さを、改めて、実感する。成長の持続可能性の観点から考えれば、今回の出来事が一旦収まっても、仕事のやり方を従来型に戻すことは、かなり難しいかもしれない。むしろ、これまでのやり方を、どれだけ見直せるかが、重要なポイントであろう。昭和でも平成でもなく、まさに、令和の時代に合った仕事のやり方が問われてくる。その際、目指すべきは、やはり、様々なネットワーク機器やアプリケーションを駆使して、人々が物理的に集合しなくとも、また、何処にいても業務ができるようなリモート型の仕組み構築である。場合によっては、会社は物理的なオフィスを持つことなく、サイバー空間上に、仮想の会社を設立することも考えられる。リモート型社会では、移動の必要性が減る可能性が高く、そのことで、人々に、メリット、デメリット両面で、様々な影響を与えることになるであろう。たとえば、満員の通勤電車や狭い居住空間等の問題が軽減される一方で、運動不足による健康への悪影響が出てくる可能性が否定できない。この他にも、一日の時間の使い方の変化に伴い、ライフスタイルの見直しを迫られる場面が多く出てくるだろう。

産業高度化の過程で、道具は重要な役割を果たしてきた。農業中心の時代には、農業機械を導入することで、そして、工業化、サービス化が進んでいく中では、工場やオフィスに、コンピュータを導入することで、仕事の効率は高まってきた。これからも、人々は、様々な道具を上手く利用することで、より効率的な仕事のやり方を模索し、内容の濃い成果を求め続けるのであろう。そんなエネルギーを感じる昨今である。

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