欧州版「ウイズ・コロナ」の夏休み
2020年05月21日
欧州において、新型コロナウイルス対策として3月に各国が相次いで実施した都市封鎖(ロックダウン)を解除する動きが目立ってきた。4月中に一部解除に動き始めたオーストリアやドイツに続き、5月にはイタリアやフランスなど感染がより深刻だった国々も、新規感染者数の減少傾向を背景に、外出制限の緩和や小売店の営業再開などのロックダウン解除へ舵を切った。ロックダウンは深刻な景気の落ち込みを引き起こしており、早期の解除を求める声が高まっている。ただし、新型コロナウイルスの特効薬もワクチンもまだ存在しないため、ロックダウン解除に伴って感染者が再び増えるリスクは小さくない。新型コロナウイルスと「共存」しつつ、ロックダウンを段階的に解除して経済活動を再開させるという複雑な課題の解決を欧州各国は迫られている。
経済活動再開の一つとして、このところ議論が活発なのが観光旅行の再開である。ロックダウンの段階的な解除が進められる中で、ホテルや飲食店の営業再開、博物館や動物園、屋外プールなどの営業再開が認められつつある。とはいえ、国境を越える移動に関してはまだ制限している国がほとんどである。この状況下で、5月13日に欧州委員会はEU域内で国境を越える旅行を解禁するにあたっての指針を公表した。人の送り出し国と受け入れ国の双方で新型コロナウイルス感染が抑制されていることに加え、受け入れ国において旅行者と従業員双方の感染防止対策が講じられていること、十分な検査が実施されていること、医療体制に余裕があること、感染経路の追跡が可能であることなどを条件に挙げている。
欧州委員会が観光業の再始動に向けた指針を公表したのは、観光業がEUのGDPのおよそ1割を占める主要産業で多くの雇用を抱える一方、ロックダウンで深刻な打撃を受けているためである。観光関連の就業者の割合が最も高いのはギリシャ(26%)で、キプロス(20%)、クロアチア(13%)、スペイン(12%)、イタリア(11%)などが続く。ところで、EUの観光業の収入を月別でみると、7月と8月の夏休みシーズンが年間収入の32%を占める。また、7、8月の観光収入の8割近くが国内旅行とEU域内からの旅行による収入である。今年の夏休みにEU域内での観光旅行を再開することができるかできないかは、EUの観光業とそこで働く人々にとって非常に大きな違いをもたらす。
5月16日にイタリアが、他のEU諸国及び英国、EFTA(欧州自由貿易連合)からの旅行者を6月3日から受け入れる方針を発表した。入国後14日間の隔離措置も免除される。これに呼応するように、ドイツのマース外相は「6月14日までは全面的に禁止」としている国外旅行に関する規定を延長しない意向を示し、ドイツ国外への夏休み旅行の可能性に含みを持たせた。5月18日にはそのドイツの呼びかけで、イタリア、スペイン、ギリシャなどドイツ人の人気観光地であるEU10カ国の外相によるテレビ会議が開催され、今後の旅行制限の解除が協議された。この協議は2週間後に再び行われることになっている。
ロックダウンの解除は感染の第2波を警戒しつつ慎重に、段階的に進めるという当初の方針が、EU域内の旅行解禁に関してはかなり前のめりの議論になっている印象がある。国境を越えた人の移動が増えれば、感染拡大のリスクは当然ながら高まる。それでも観光旅行の解禁が議論されているのは、経済的な打撃が大きすぎ、南欧諸国を中心に背に腹は代えられない事情が大きいためだろう。もちろん、観光旅行の解禁が感染拡大につながっては元も子もない。感染防止のため他人との距離を保つこと、手洗いや消毒をこまめにすること、マスクの着用など防止策を徹底し、また大勢の人が集まる旅行先は回避するなどの対応で、「コロナと共存する夏休み」の実現が目指されることになりそうである。
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