使命感、異質な経営モデルと「SDGs」

~起業家イーロン・マスク~

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2020年05月20日

  • ビジネスICTコンサルティング室 主席コンサルタント 石井 裕仁

イーロン・マスク。マスコミによく登場するので名前は聞いたことがあるかと思います。現代における希代の起業家の一人です。ただ、時折、過激な発言や行動で物議を醸します。最近も、新型コロナウイルス規制で停止している工場を「逮捕覚悟で再開」と宣言したり、「自分の所有するテスラの株価は高すぎる」と発言し株価を下げたり、誕生した息子に「X Æ A-12 Musk」と不可思議な名前を付けるなど話題に事欠きません。

筆者は、その言動から、彼は聖人君子とはかけ離れた存在だと思っていますが、一方で、彼の使命感と異質な経営モデルが「SDGs」にストレートに結び付いていることに驚きを覚えています。

イーロン・マスクは、南アフリカ出身、カナダに移住し清掃業などで働き、米国の大学を卒業、大学院に進学しましたが2日で退学し起業しました。2000年頃から注目され、彼の率いる宇宙ベンチャー「スペースX」、電気自動車(EV)「テスラ」、脳とコンピューター等とのインタフェースの実用化を目指す「ニューラリンク」などの新興企業は独自の発想と世界最先端の技術を誇ります。2008年公開の映画「アイアンマン」の主人公(発明家、経営者、大富豪)のモデルになったことでも知られています。

彼の使命感は、「人類と地球を救う」という壮大なものです。人類が生き延びるためには他の惑星への移住が必要だと考え、ロケット開発を行う「スペースX」を創業しました。また、宇宙への移住実現までには時間がかかるので「テスラ」で地球環境に優しい車の普及を図っています。

「スペースX」はロケットの再使用の開発に取り組んでおり、第一段階として従来使い捨てだったロケット第一段エンジンの逆噴射による着陸・回収に成功し、それを再利用して打上げを行っています。この回収・再利用は、まさに画期的な技術革新ですが、加えて「SDGs」が掲げる環境保護、持続可能な消費と生産などにも結び付きます。また、イーロン・マスクが所有する「ソーラーシティー」は太陽光パネルと屋根用タイルを一体化したソーラールーフを販売、これを使って家庭で発電し、「テスラ」の住宅用蓄電池に蓄え、「テスラ」のEVで排出ガス削減に貢献するという再生可能エネルギーの循環ができます。

当初、90年代にソフトウェア開発会社を複数起業・売却した所謂IT長者でした。しかし、2000年頃からは、宇宙、交通、エネルギー、医療、トンネル掘削など規制が強い事業分野に進出し、製造企業を起こしました。高い目標を掲げ、リスクが高すぎると思われる分野に資金を呼び込み、技術革新で事業を発展させるという彼独自の「異質な経営モデル」です。加えて、自動化とデザインへの強いこだわり、独特な経営手法なども特徴です。今や米国製造業の旗手です。

彼は、米国のパリ協定からの脱退に反対していましたが、トランプ政権が脱退を決めた際に「気候変動は現実だ。脱退は米国にも世界にとっても良くない」として政府の経済諮問委員会を辞任しました。彼の「スペースX」は政府から高額契約を数多く受注しているので、かなり大胆な行動です。また現在は、新型コロナウイルス対策のための人工呼吸器の供給に尽力しています。これらの行動も「SDGs」に通じます。

これまで、自己資金も注ぎ込み、何度も倒産寸前になりました。また、現時点でも、それぞれの事業で大きな壁や課題を抱え、一部の事業は上手く行っていないと伝えられています。しかし、社会的課題の解決に向けて、既成概念に囚われず、飽くなき追及で使命達成に向けて走り続けています。企業経営者として持ち続ける熱意に引き付けられます。

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