日本版スチュワードシップ・コード再改訂と危機対応

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2020年04月16日

2020年3月24日、日本版スチュワードシップ・コード(以下、SSコード)が改訂(再改訂)された。改訂の主なポイントは、①サステナビリティの考慮、②適用対象の拡大(債券など「その他の資産」に投資する機関投資家など)、③運用機関による開示・説明の拡充、④企業年金等によるスチュワードシップ活動の明確化、⑤機関投資家向けサービス提供者(議決権行使助言会社、運用コンサルタントなど)に対する規律の整備である。いずれも重要な改訂ではあるが、新型コロナウイルス感染症の拡大の中、あまり注目されていないのは、筆者としては残念である。

確かに、改訂を受けた次のステップは、SSコードを既に受け入れている機関投資家が、遅くとも2020年9月末までに、改訂内容を踏まえた同コードの各原則(指針を含む)に基づく公表項目の更新を行い、その旨を金融庁に通知することである。まだ、半年近くも先のことであり、その意味では「不要不急」の案件だと言われてもやむを得ないかもしれない。

しかし、今回の改訂内容を含めて、SSコードの趣旨・精神は、現下の状況と無縁ではないように思われる。

いわゆるパンデミックの状況下において、サステナビリティを考慮した投資先企業の持続的な成長のため、機関投資家はどのような役割を果たすことができるだろうか?外出自粛が要請される中、どのようなエンゲージメント活動ができるだろうか?

新型コロナウイルス感染症が企業活動にもたらす影響に関して、債券に投資する機関投資家は、無関心でいられるだろうか?

運用機関が、必要に応じて、「平時」とは異なる「有事」の行動(危機対応)をとること自体は、スチュワードシップ責任の観点からも、当然、正当化されるだろう。ただ、自らがとった危機対応について、受益者に対する説明責任を適切に果たす上で、何が求められることになるだろうか?

適切な危機対応とそれに伴う説明責任は、運用機関(アセットマネージャー)だけではなく、アセットオーナーについても当てはまるはずだ。特に、企業年金は、従業員の大切な老後資産を預かっていることを忘れてはならないだろう。

そして、議決権行使助言会社や運用コンサルタントは、危機下においてとるべき機関投資家の行動について、適切な助言を行っているだろうか?

このように考えていくと、機関投資家のスチュワードシップ活動の真価は、「平時」よりも、むしろ「有事」において発揮されるようにも思われる。

将来、歴史を振り返ってみたとき、新型コロナウイルス感染症拡大の年にSSコードの重要な改訂が行われたという事実に、何か象徴的な意味合いが与えられるというのは、考え過ぎだろうか?

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳