新型コロナウイルスと若者

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2020年04月13日

  • 政策調査部 足立 雅準

目下、新型コロナウイルス感染症(以下、新型肺炎)のニュースを耳にしない日はない。今年の年初は、中国の特定地域でのエピデミックと思われていた新型肺炎であったが、春節における中国人の大量移動という要素も重なり、感染の広がりはアジアから欧州へ移動してパンデミックとなり、勢いを増した形で米国にも上陸した。政府が緊急事態宣言を発出するなど、日本の経済と社会に重大な影響を与えている。気になるのは、将来のある若者の受難にもっと目を向けるべきではないかということだ。

就職する前の最後の楽しみだった卒業旅行に行けなかったのは仕方がないが、内定取り消しが少なくない状況になれば、新たな就職氷河期世代を作り、超長期の社会課題を抱えることになりかねない。現在の就職活動においても、大手就職サイト運営者が主催する合同会社説明会が軒並み中止となるなど、学生が広く企業を知る機会が失われている。今年の新入社員の中には、「3つの密」を避けるために集合研修もままならず、必要最低限のビジネスマナーすら充分に学べず、現場に配属された者もいるだろう。

今後の人生を左右する入学試験にも影響が及んだ。高校入試では、感染した受験生のための追試の実施や、学力検査をせず作文や面接等で選考を行ったケースがある。国公立大学の入学試験においても、予定していた個別学力検査(二次試験)が実施できず、大学入試センター試験や調査票で合否を決めなければならない大学があったと聞く。感染拡大の時期が少しでもずれていたら、大学入試センター試験の実施すら危ぶまれたかもしれないと考えると少し恐ろしくなる(中国でも全国統一の大学入試「高考」の実施が、7月へ1か月延期されるようである)。

今回のパンデミックで、働き方改革が進むだろうといわれている。企業によっては、なかなか進まなかったテレワークや時差出勤、TV会議システムの導入等が一気に加速すると予想される。ここ最近の新入社員は、長時間労働を否定された働き方が前提であった。これからの新入社員は、それに加え、テレワーク等も当然のものとした上で働き始めることになる。いかに生産性を引き上げられるか、企業は既存社員向けを含め、研修のあり方を根本から見直す必要があるのではないか。

また、今回の事態はグローバル化の深まりゆえに、短期間のうちに世界規模の経済的難局に至ったと考えられる。最近の日本の若者は保守化しており、海外への転勤や留学を望まないようになっているとの指摘がある。好むと好まざるとにかかわらず、グローバル化とダイバーシティが時代の潮流である。新型肺炎問題をきっかけに若者がさらに内向きにならないようにする上で、学校や企業の役割は大きいだろう。

若者を教育してきたのは現在の大人たちのはずだが、認識不足の若者の活発な行動が市中感染を拡大させているなどと、どちらかと言えば若者は悪者扱いされている。官民をあげた対策は、もっと若者たちの未来を見据えたものとしていく必要もあるのではないか。

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