コロナショックの長さと深さを決める途上国・新興国

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2020年04月09日

  • 児玉 卓

4月3日の米国の雇用統計は序の口にすぎない。これから世界の各所で、驚くほどに悲惨な経済統計が次々に発表されることになる。これは既定事実といっていい。問題はその先である。

中国・湖北省で始まった新型コロナウイルスの拡散は、現在欧米が主戦場になっている。イタリアなどの大流行国では大きな犠牲を払いながらも、ここにきて新規感染者数にピークアウトの兆しが見られている。これは朗報である。一方、一部の途上国・新興国で、じわじわと感染の拡大が進みつつある。これは明らかな凶報である。途上国・新興国が欧米に続くコロナショックの第三の主戦場となるかどうかが、世界的感染拡大の収束までの期間と世界経済の底の深さを決めることになろう。

仮に途上国・新興国に広く新型コロナウイルスが拡散してしまえば、その社会的・経済的ダメージは先進国を大きく上回るものとなる恐れがある。途上国・新興国は総じて感染拡大に耐えられる医療的キャパシティが不足している。このこと自体、極めて深刻な問題であるし、少なからぬ国が比較的感染者が少ない中でもロックダウンかそれに準じる措置を断行しているのは、そうした能力の限界を自覚しているためであろう。しかし、そのような厳しい感染(接触)防止策が、所期の効果を上げるかは心許ない。何故なら、ロックダウン的措置は経済活動を圧殺する。そして途上国・新興国はやはり、先進諸国に比較して経済の急激な萎縮に対して脆弱であると考えられるからだ。

例えば、途上国・新興国の都市には非常に多くの出稼ぎ労働者が存在する。もちろん、そこには一部のいわゆる高技能労働者も含まれるわけだが、より多くの非正規、日雇い、インフォーマルセクター労働者が存在する。社会保障によってカバーされておらず、おそらくは十分な貯蓄の持ち合わせのない人々が、ロックダウンに伴う工場や商店の休業、景気の劇的な落ち込みによって職を失ったとき、彼らの生活水準は都市に居残ることでますます悪化する可能性が高くなる。出稼ぎ労働者の都市から農村への逆流が始まったとき、この人口移動を公権力によって抑えることのできる途上国・新興国は(中国を除けば)、おそらく多くはない。感染を封じ込めるためのロックダウンが、経済を圧殺することを通じて、結果的にその効力を低めてしまう可能性が高いのである。

もう一つ注目しておく必要があるのは、途上国・新興国における大規模な感染拡大が回避できないものであるとすれば、それがいつ起こるかである。欧米における感染がピークアウトし、平時への回帰が始まった後であれば、途上国・新興国への国際的な支援が期待しやすくなる。もちろんそのためには、今次のコロナショックが昨今の自国中心的風潮に拍車をかけないことが前提ではある。いずれにせよ、途上国・新興国の感染状況ほど重要なデータは当面ないといえるだろう。

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