新型コロナに見る経済予測の限界と重要な役割

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2020年04月08日

  • 中里 幸聖

3月11日の東日本大震災9周年の日、WHO(世界保健機関)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19 以下、新型コロナ)のパンデミック(世界的大流行)を宣言した。

それに先立つ2月27日、安倍首相は小・中・高校の春休みまでの臨時休校要請を出し、日本では危機対応の認識が深まり、テレワークの一層の推進などの企業の対応が触発された。ドイツのメルケル首相が第二次世界大戦以来の試練という認識を自国民に呼び掛けるなど、3月後半には欧米各国の首脳が新型コロナを戦争に匹敵する危機という認識を表明している。時々刻々と状況が動いているので、本コラム執筆時点から掲載までの間にも大きな状況変化があるかもしれない。

戦争、パンデミック、自然災害などは経済に大きな影響を及ぼす事象であるが、事前に経済予測に織り込むことはできない。これらを事前に告げるのは予言の類いであり、経済予測の役割ではない。経済予測は、消費税増税やオリンピックなどある程度事前に分かっている事象を反映できるが、普通の人間には発生が予測不能な事象については反映できないのである。なお、経済政策はパンデミックなど経済分野以外で起きた事象そのものをコントロールすることはできない。その事象によって起きた経済的な影響の緩和(事象によっては促進)が、経済政策のできることであり役割である。

では、パンデミックなどの予測不能な事象発生に、経済予測が無力かというとそうではないと考える。事象発生自体を事前に経済予測に織り込むことはできないが、起きた事象の影響度合いを予測することは可能であり意義がある。新型コロナによる負の様々な経済的影響に対し、米国では大規模な経済対策が打ち出される見込みであり、わが国でも大規模な経済対策を実施する見通しである。家計への現金給付や商品券配布、観光業や外食業、中小企業への資金繰り対策、雇用維持のための支援策など様々な具体的な対策が検討されている。これらの対策の全体的な効果や個別の効果を経済予測によりある程度把握することは可能であり、経済予測の重要な役割である。より効果の高い、あるいは意義のある対策を打ち出すためにも経済予測を積極的に活用するのが望ましい。

依然、新型コロナの世界的な収束が見通せない状況ではあるが、新型コロナ自体の収束後の明るい未来に目を向けることも大切である。人々は将来への希望を持ってこそ、足元の困難を乗り越えられる。明るい未来に向けた対策の良し悪しを推測し、より良い未来構築の一助となることが経済予測に求められる。

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