都市部と地方の格差是正に向けて

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2020年02月27日

  • 佐藤 清一郎

かつて賑わっていた地方が衰退、もしくは、消滅危機に追い込まれている状況を目の当たりにするのは、寂しさを禁じ得ない。自然、文化、コミュニティ等を含めて、日本の良さを残す地域も多く、何とかならないものかと思い悩むところである。地方への人の流れを取り戻し、都市集中型の構造を変えていこうとする場合、キーワードとなるのは、海外市場、外国人、そして高齢者ではないだろうか。

まず、海外市場に関しては、中国や東南アジアへの更なる進出と、アフリカ等新たな市場開拓への積極的挑戦である。日本企業は、主として都市部に住む日本人が顧客であるという発想から脱却して海外にいる顧客に目を向けるべきである。中国や東南アジアで働く日本人はだいぶ増えたが、まだ少ない。ましてやアフリカとなると、日本人には高いハードルで、極めて限られた人々だけの世界である。日本が高成長を享受できた時代には、日本に注目して、日本市場狙いの企業活動は理にかなっていたが、低成長が続く現在、日本での企業活動のウェイトは低下させた方が理にかなっている。幸いにして、日本にはこれまでに蓄積された大量の金融資産やノウハウがあり、地方にも有力な企業が沢山存在する。こうした貴重な資源を、国内ではなく海外で有効に活用していく工夫が求められる。新興国は、日本とは違った環境でリスクも多く存在するが、成長余力を大いに残しておりビジネスチャンスも多いのである。日本と新興国の成長率格差を考えると、将来的に、海外に振り向けられた資源は、日本にとどまった場合よりも、より高い収益を生む可能性が高く、結果として、日本の成長に寄与していくことになるであろう。

次に、外国人とは、日本にビジネス、観光、技術実習等の目的で来日する外国の人々のことである。これらの人々は、必ずしも都市部に行くのではなく、地方にも足を運んでいる。外国人が来日することによる経済的メリットとしては、(1)外国人による日常の消費活動や観光地での消費活動による国内経済への寄与、(2)観光地再開発のための国内企業による投資による国内経済への寄与、(3)外国人投資家による不動産分野等への投資による国内経済への寄与、(4)外国人技術実習生による、介護や建設分野での人手不足の解消等がある。実際に、北海道や長野等では海外向けにリゾート開発が行われているし、また、外国人が沢山訪れている地方の観光地では、きれいにインフラが整備されているところも多くなってきている。外国人の訪日動向を見ると、特に増加が著しいのがアジア地域からである。アジアには、日本へのあこがれを持つ人が多く、豊かになってくると日本を訪れたいということになってくるのである。豊かになった順番で、次から次に、日本を訪れてくるようになる。最初は中国であったが、その後、タイ、インドネシア、ベトナムなどから旅行者が増えてきている。今後も、この傾向は続いていくことが予想されるので、日本としては、この点に注目して、法整備を含めたインフラ環境を、外国人が訪れやすいように変化させていくことのメリットは大きい。先進国から新興国へノウハウや資金を移動して、新興国経済の発展に寄与するというのは一般的な流れだが、日本の場合は、外国から、ヒト、カネを取り込むことで、経済(特に地方経済)を活性化できる余地は大いに残っている。

最後に高齢者とは、定年等により労働市場から一旦去った人々である。周りを見るに高齢者の就業は、まだそれほど一般化している印象はない。定年制などの縛りにより、労働市場からの退場を余儀なくされてきた高齢者の中には、能力的に労働可能な人も多い。年金受給者という立場で、旅行や趣味に時間を使うのも一つの生き方だが、労働力不足、年金財政の将来不安等日本経済が直面している問題からすると、必ずしも望ましいことではない。企業側、労働者側の意識等を細かく分析して、働く意欲、能力がある高齢者が労働市場に戻れる仕組みを、早急に整えていくことが望まれる。高齢者の中には、地方で生活をしたいという人も多いので、高齢者労働市場の柔軟性の高まりは、地方経済にプラス寄与していくことが期待できるであろう。

以上のことを徹底して進めていくと、(1)会社の中で海外出張や海外勤務の人が増えてきた、(2)どこの観光地に行っても外国人を多く見かける、(3)会社の中でそれぞれのスキルを活かして働く高齢者の割合が増えてきたと感じることが多くなってくるはずである。そうなれば、新たな成長への期待や地方活性化等の兆しが出始めた証拠であり、日本経済は、全体としてバランスのとれた社会へと進み始めていることになる。

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