米国の貿易赤字の見返りと持続性

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2020年02月12日

  • 土屋 貴裕

トランプ政権は米国の貿易赤字を問題視しているようだが、貿易赤字であることは他国から提供される財やサービスを利用できる恩恵を受けているということである。問題視する理由の一つは、輸入が増えると、輸入代金を支払う側(米国)のお金がなくなると思われているのかもしれない。

しかし、実際には、輸出側が受け取った代金と同額の資金が支払国側に向かっている。米国に輸出している国々は、財やサービスを提供すると同時に、その購入代金を米国に貸し付けているといってもよい。米国が何十年にもわたって貿易赤字を続けられているのは、米国がお金を借りることによって成り立っている。例えば、日本が米国債などを購入することで資金が米国に向かい、米国内の金融システムによって必要なところに資金が配分されているのである。資金が直接に米国に向かわなくても、世界中で資金のやり取りが行われ、間接的な流れを含めて米国に資金が向かっている。

輸入側の負債は銀行を通じた借入だけではなく、債券であったり、株式であったりするが、いずれにせよ、貿易赤字を続けていれば他国からの借金が増えることになる。一般に借金をし続け、借金残高が増えていくと返済可能性に疑問が抱かれる。そうなると、だんだん借り換えにくくなるため、貿易赤字は持続的ではない、と考えられることになる。

だが、貸す方はその方が得だと思うから貸している。魅力的な借金証書を提供していれば、米国は貿易赤字を続けることができる。原油など国際的に取引される商品の価格がドル建てであるように、世界最強の軍事力を持つ米国のドルは、基軸通貨と呼ばれて様々な場面で使われ続け、多くの国で様々な支払いに充てられることができる。その魅力で米国は借金を増やし続けることができた。

ところが、各国の中央銀行や民間で、デジタル通貨の発行が検討されている。もしドルに依存しない国際的な資金の流れが構築されると、ドルの魅力が低下して米国は借金を増やしにくくなり、貿易赤字の持続可能性に改めて疑念が持たれるかもしれない。

ただし、米国の借金は、支払金利が相対的に低い米国債などの債券が多く、逆に米国は各国に株式や直接投資など、債券よりも収益性の高いエクイティ性の投資を行い、収益を上げている。米国のモノの貿易収支は確かに大幅な赤字だが、世界最大の対外純債務国であるにもかかわらず所得収支(借金への支払いと投資からの受取りの差額)は黒字なのである。つまり、米国の貿易赤字はもう少し小さくなれば、持続可能な世界が見えてくるのではないか。貿易赤字の見返りに負債性証券を渡し、負債性証券の元利払いは各国に投資したエクイティ性証券(株式等)の収益で貿易赤字をカバーすることができる世界である。

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