世界経済、「適温経済シナリオ」実現に向けたチェックポイント

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2020年02月04日

  • 小林 俊介

2019年秋からグローバルな金融市場に台頭していた見通しを一言で表現するならば、「適温経済」となろう。適温経済は三つの条件から構成される経済環境をさす。具体的には①景気が回復(世界経済の成長率が加速)に転じること、にもかかわらずインフレ率の上昇には至らず②金融緩和が継続すること、そして③政治リスクも含めて経済の不確実性が限定的であること、の三条件が揃っている中で、広範な金融資産の価格上昇基調が維持される環境だ。この金融資産価格の上昇が資産効果を伴い、本格的な景気拡大軌道に転じていく-その前段階が適温経済である、とも言えよう。

しかし「適温経済」局面は、飛行機にたとえれば離陸時のようなものだ。外的なショックに対して頑健な状況ではない。過去を振り返ると、景気減速期から適温経済、そして加速期へと移行していく過程は決して平坦ではなかった。今回も例外ではなさそうだ。年明け早々から断続的に発生しているグローバルな金融市場の乱高下が、世界経済回復に至るまでの道のりの険しさを予感させる。そこで以下では「適温経済」実現に向けたリスクの所在を検討してみたい。

第一に、世界経済の底入れには未だ時間を要する公算が大きい。とりわけ先進国を中心として資本財・耐久財需要の減退が深刻化している点に注意が必要だ。また、半導体需要の回復に伴い底入れの兆しが見られていた中国経済に、武漢で始まった新型肺炎のアウトブレイクが影を落とす懸念も色濃く残る。

第二に、低インフレ持続が金融緩和継続の前提条件となるが、この文脈において資源価格等の動向に細心の注意を払う必要がある。だからこそ米国-イラン間の関係緊迫化が金融市場に(一時的とはいえ)大きな動揺をもたらしたともいえるだろう。また、FRBが行っている資産購入プログラムの継続可否も不透明だ。

第三に、米国の大統領選挙・議会選挙で民主党が完全勝利した場合、法人税増税の可能性が高まる。また、選挙戦を有利に進める上で現職トランプ大統領がドル安誘導に踏み切るリスクも無視できない。

もちろん、上述したリスクは、現時点で実現可能性が高いリスクばかりではない。しかし平坦ではない回復への道のりの中で、乱気流の所在を認識しておくことは決して無意味ではないだろう。

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