気候変動への適応計画を発表したロシア

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2020年01月29日

  • シニアエコノミスト 菅野 沙織

世界各国で気候変動といかに向き合うかを巡り運動が広がっているが、化石燃料輸出のメジャーであるロシアの気候変動に対する考え方はこれまでよくわからなかった。こうした中、昨年12月19日に行われた毎年恒例のプーチン大統領の記者会見では、開始直後から気候変動に関するストレートな質問が投げかけられた。モスクワは昨年末の気温が異常に高い暖冬となっていたため、同記者会見は気候変動について質問をする絶好の機会となったのかもしれない。

プーチン大統領は、気候変動は人類活動が主因であるという西側の定説に疑問を呈していることで知られるが、上記記者会見では気候変動が起きていること自体は認め、「現代の人類が地球規模の気候変動にどのように影響を与えているかを数字で割り出すことは、不可能ではないにしても非常に困難だ。しかし、何もしないわけにはいかない。この点については、私も同意見だ。いずれにしても、気候が劇的に変化しないようあらゆる努力を払わなければならない」と語った。

ロシア政府は大統領の記者会見から約一週間後に「2022年までの気候変動への適応に関する第1段階の国家行動計画」(以下「行動計画」)を発表した。この「行動計画」はロシア政府の気候変動対策と見なされ、英国メディアも注目した。これによれば、ロシアでは世界の平均よりも速いペースで温暖化が進んでいる。1970年代以降、ロシアでは10年間に年平均0.47℃のペースで気温が上昇しており、これは世界の平均ペース(0.18 ℃)の2.6倍である。ロシアの気候専門家は、その背景にロシア国土の特徴があると指摘する。地球全体で見れば水が地球の表面の71%を占め、陸地は29%である。しかし、ロシア国土の場合は極端に陸地の割合が大きい。そして、陸地の熱容量(温度を1℃上げるのに必要な熱量)は海洋のそれを大きく下回るため、ロシアの温暖化はより速いペースで進んでいるのである。この「行動計画」の主眼はタイトル通り「適応」である。ここで言う「適応」とは、気候変動の悪影響をできる限り軽減しつつプラスの影響を活用し、経済効果を得ることである。

負の影響としては、一部地域における干ばつの頻度の高まり、深刻化、長期化、あるいは極端な降雨、洪水、土壌への浸水の他、森林火災の危険性の増大が挙げられている。一方、経済効果を得られる可能性のある例としては、寒い季節のエネルギー消費の削減や、北極海の氷の状況によって貨物の輸送条件が改善すること、ロシアの、北極海の大陸棚へのアクセスがより容易になる可能性があること、植物栽培地域が拡張することや、畜産の効率が向上すること等が挙げられている。

気候変動のグローバル対策における新興国の役割が重要なことは言うまでもないが、こうした中でロシアが西側と若干ニュアンスの異なるアプローチを取っていることは、気候変動が極めて複雑で、かつ自然と社会と政治の複合的な現象であることを改めて思い起こさせる。

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