投資家の関心で深化する「消費者志向経営」

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2020年01月21日

  • 菅原 佑香

消費者庁は、2018年度より「消費者志向経営」の実施に取り組む優良企業の表彰を行っている。サステナブル経営とも呼ばれる「消費者志向経営」の取り組みは、企業が消費者全体の視点に立ち、健全な市場の担い手として、消費者の信頼を獲得するとともに、持続可能で望ましい社会の構築に向けて、社会的責任を自覚して事業活動を行うことである。

企業がこの取り組みを行うことで消費者や顧客、従業員の満足度向上はもちろんのこと、資本の出し手である投資家に対しても製品やサービスに対する考え方を明示することができる。企業との対話において、消費者にどう対応しているのか、製品情報や責任に関するヒアリングを必ず行うと話す投資家もいる。

消費者や顧客から寄せられた様々な声を活かせば、企業の大きなビジネス機会の獲得につながる。では、企業は消費者や顧客からの声に対してどのように対応しているのか、苦情件数を開示する企業の傾向をTOPIX500構成銘柄の各社ウェブサイトに掲載されている報告書等(2018年版の統合報告書/アニュアルレポート、CSR報告書/サステナビリティレポート)で見てみた。

それらによれば、消費者や顧客からの相談や苦情件数の動向を踏まえ課題解決に向けた対応を行っていることなどが記述されている。吸い上げた声を収集し、分析・共有することで商品・サービスの改善に取り組むなど、各社独自のやり方で品質向上につなげようとしている。

2018年度から2年連続で「消費者志向経営」の優良事例表彰を受けているある企業は、SNSの普及という社会の状況に対応し、SNS上で家事や美容に関する悩み解決を行うなど、消費相談窓口に直接アクセスされにくい若者の声も吸い上げている。扱い方を誤ると事故やトラブルにつながりやすい製品やサービスを提供する企業においては、それを踏まえた製品設計や顧客に対応する部門のあり方を検討するだけではなく、様々な声をどう収集するのか、社会全体とのコミュニケーションの手段にも目を向けていくことが必要だ。

「消費者志向経営」の取り組みが消費者からの信頼獲得に寄与するのはもちろん、さらに投資家が企業の消費者対応の効果に関心を持つようになれば、企業の取り組み姿勢に大きな変化が生まれるかもしれない。「消費者志向経営」が浸透し、社会全体へと波及していくことで、より良い社会の構築につながることが期待される。

参考資料
菅原佑香「消費者や顧客の声を企業は活かせているか」(大和総研レポート、2019年11月21日)

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