企業統治等に関する会社法改正に寄せて
2020年01月16日
2019年12月に会社法改正法が成立した。それに伴い筆者の元にも質問が寄せられるようになった。
「今年(2020年)6月の定時株主総会シーズンへの影響は?」
会社法改正法の主要部分の施行日は、公布日(2019年12月11日)から起算して1年6月以内の政令指定日である。具体的な日程は未定だが、3月決算会社の場合、2021年6月定時株主総会から適用される可能性が濃厚で、今年6月総会への直接的な影響はなさそうだ。
「企業統治関連の会社法改正とはいえ、ガバナンスに関連するのは取締役の報酬等の決定方針と社外取締役の設置義務くらいだろう?」
そうとは限らない。
例えば、上場会社に強制適用される「株主総会資料の電子提供」は、単に紙媒体から電子媒体へ、というITの問題にとどまらない。株主総会資料を株主に提供すべき時期が、総会2週間前(発送)から3週間前(ウェブ掲載)へと、事実上、1週間前倒しになる。株主が株主総会資料を精査できる時間を確保できるようにする、という意味では、ガバナンスに関連する問題でもある。
さらに、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会では、金融商品取引所の規則で電子提供を総会の「3週間前よりも早期に開始するよう努める旨の規律を設ける必要がある」との附帯決議がなされている(※1)。これに、招集通知の早期発送に努めることを求めるコーポレートガバナンス・コード(CGコード)補充原則1-2②にコンプライすることを合わせて考えると、今後、さらなる前倒しが求められることも考えられる。
なお、「株主総会資料の電子提供」の施行日は、他の改正事項よりも遅く、公布日(2019年12月11日)から起算して3年6月以内の政令指定日(3月決算会社の場合、遅くとも2023年6月定時株主総会から適用?)とされている。
「今さら会社法上、1名以上の社外取締役を義務付けることに意味はあるのか?」
確かに、マザーズ市場などの例外はあるが、原則、上場会社には、既にCGコードで複数の独立社外取締役の設置が求められている。ちなみに、東京証券取引所によれば市場第一部上場企業における社外取締役の平均人数は2.9人である(※2)。いくら法律上の義務とはいえ、今さら1名以上の社外取締役を義務付けると言われても、何も状況は変わらない、と考えるのはもっともなことだろう。
ただ、主に海外から、わが国のコーポレートガバナンス改革を評価しつつも、専らソフトロー(CGコード)中心で、ハードロー(法律)の対応が不十分と懸念する声もあった(※3)。会社法改正により、上場会社には、株主・投資者の利益を代弁する立場の社外取締役が少なくとも1人は必要だということを法律上、明確に示すことで、こうした海外からの懸念に対応するという意味はあるかもしれない。
「今年のガバナンス関連の制度改正で注目すべきものはあるか?」
現在、日本版スチュワードシップ・コードの改訂が進められている。その次は、CGコードの改訂が予定されている。
テーマとしては、「監査に対する信頼性の確保」や子会社上場(親子上場)問題を含む「グループガバナンス」が論点として挙がっている(※4)。
これらに加えて、東証のいわゆる市場区分問題との関連で、プライム市場におけるコーポレートガバナンス体制のあり方も論点となりそうだ。2019年12月27日に公表された金融審議会市場ワーキング・グループ 「市場構造専門グループ」報告書が、「プライム市場に上場する企業については、我が国を代表する投資対象として優良な企業が集まる市場にふさわしいガバナンスの水準を求めていく必要がある」とした上で「今後、コーポレートガバナンス・コードなどの改訂等を重ねる毎に他の市場と比較して一段高い水準のガバナンスを求めていく」と述べている(※5)。
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