新春を迎えて

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2020年01月01日

  • 理事長 中曽 宏

日本では昨年、令和の時代を迎えた。令和が表す「調和」とは裏腹に、これまで世界を支えてきた秩序はいくつもの点で大きな転換点を迎えているように見える。国際政治の面では、冷戦終結後世界平和の要となってきた米国一極支配が崩れつつある。新たな超大国として「一帯一路」を推し進める中国は、古い大国ロシアと連携しながら台頭し、ユーラシア大陸の西と東で不均衡が生まれている。

経済の面では、これまで信じて疑われることのなかったグローバル化が、国際的には貿易不均衡を、国内的には富の偏在を助長するものとしてデメリットに焦点が当たっている。全ての国が経済成長を追求してきた結果、地球温暖化が進み世界は、かつてない気候変動に見舞われている。

金融の面ではリーマン・ショックを契機とした国際金融危機が構造変化を引き起こした。世界の中央銀行は、量的緩和やマイナス金利政策など非伝統的な金融政策の領域を奥へ奥へと進めてきた。経済は立ち直ったが、極めて緩和的な金融環境とそのもとでの大規模な資金流動性の存在が、市場の仲介機能に目詰まりを起こし新たな課題を生んでいる。超低金利が常態化する中で、日本でも欧州でも銀行など伝統的な金融機関の既存のビジネスは苦境に立たされている。日本でも、金融はいつか正常化に向けて動き出すだろうが、その先にある新しい金融秩序がどのような姿になるのかを正確に予見することは難しい。

ここまで書くと、不確実性に満ちた世界にたじろぎそうになるが、過度に悲観的になることはないと思う。経済成長によって豊かになった社会では平均寿命が延び、日本では前回の東京オリンピックの頃に比べ人々は20年近くも長生きするようになっている。より多くの国民が長く元気に、社会貢献をしながら多様な生き方を楽しむことができるように、社会保障や教育も含め、持続可能な経済社会を再構築することは、難しいが極めて建設的な仕事である。

多様性という点では、日本では昨年、ラグビーワールドカップでの日本チームの活躍に国中が沸いた。出身や背景の異なる多様な選手が日本の文化で結ばれ、「ONE TEAM」のもとで一丸となってゴールを目指す姿は近未来の日本社会の縮図のように見えて頼もしく思えた。

金融の世界では、デジタライゼーションが、フィンテック企業の台頭もあって金融の風景を劇的に変えつつある。キャッシュレス決済の動きはそのごく一面にすぎない。金融機関は、技術革新の波に飲み込まれるのではなく、波にうまく乗ることによってビジネスフロンティアが大きく広がる。待ったなしの気候変動に、金融産業としてどう対処していくかも知見を要する。金融技術革新も気候変動対応も2020年を彩る大きなテーマになるだろう。

エコノミストも安穏としていられない。経済構造が大きく変化する現代においては、伝統的な手法にとらわれず分析手法を改善していく必要がある。経済学で、需給ギャップがどう変化するのかを分析する景気循環の経済モデルでは、潜在成長率を外生的に所与のものとして扱う。一方、潜在成長率の決定要因を分析する経済モデルでは、需給ギャップを明示的には取り扱わない。エコノミストが今後、的確な景気判断や政策提言をしていくためには、こうした経済モデルの分断を超えて成長と景気循環の相互作用をもとらえて経済分析を行っていくことが必要だろう。

世界は大きな変革期を迎えつつある。先の見えない時代に立ちすくむのか、果敢に挑戦していくのかで未来は決まる。変革期にこそ潜むチャンスも大きいはずだ。このような時代だからこそ、夢や憧れに動機づけられた若い起業家精神、そして、未知の領域に挑む指導者たちの勇気とリーダーシップが求められる。それが発揮されたとき、文字通り「美しい調和」に満ちた令和の時代への途が拓けるにちがいない。

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