SDGs達成のためには「女性と次世代」の「エンパワーメント」、ではなく「女性と次世代」に「まかせる姿勢」。

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2019年12月10日

  • 河口 真理子

この秋、全国の中高生を対象とした「まちづくりアイデアコンテスト」(※1)の審査委員を務めさせていただいた。これは内閣府主催の地方創生ワカモノ会合のプロジェクト。全国の中高生から186の応募作品があったが、一次審査を通過したファイナリスト25作品を私含めた審査委員が審査して最終的に5作品を入賞作として表彰した。
審査を通じ、大人では思いつかないアイデア、冷静な戦略、複数の目的や機能をうまく合体させる構想力、様々な大人を巻き込む力、ユニークなプロジェクトのネーミング、表彰式でのプロなみのプレゼンまで、良い驚きの連続であった。

最優秀賞に選ばれた作品は、夏の昼間は暑いので農業を子どもたちも一緒にすずしい夜やるという目の付け所、推進するために株式会社を作る実行力などが評価された。その内容は
「熊本氷川町では高齢化が進み、暑い夏の作業が肉体的に厳しいため耕作放棄地が増えている。一方で自分たち中高生は、夜集まって何かやることにワクワク感を持つ。では、耕作放棄地を使って夏場は満月の前後1週間夜の時間、高齢者や私たち子どもが一緒になって農作業をやる。ついでに地元の独身女子、男子のチームも作って一緒に月夜の下農作業をやればカップルも生まれやすい。」
これは、耕作放棄地解消、 子どもたちの食育と農業教育、 独身男女の出会いの場、そして農業振興にもつながる、一挙両得どころではない、一挙5得にもなる洗練されたビジネス戦略といえる。一方で「新・ムーンライト伝説 ~月夜の農業は、ワクワク感がたまらないよ♪~」 というネーミングは女子中高生らしさそのもの。そのギャップも面白い。

次席作品は、京都府の木津川市の高校生のもの。地域の伝統的特産品の「柿渋」とプラスチックゴミを結び付けたアイデアが秀逸であった。
「地元特産であった柿渋の防水防虫消臭効果に着目、紙にコーティングすることでプラスチックレジ袋を代替するという問題意識を持ち、まず効果を自分たちで実験。有効性を確かめ、地元の企業や市長に掛け合い、市指定のゴミ袋での実現化を目指している。レジ袋ゴミ問題解決、衰退している柿渋産業の復活、渋柿の植樹による耕作放棄地解消に加え地域の住民のゴミ出しの意識改革にもつながる。」高校生がプレゼンしている姿を見なければ大人のビジネスコンテストでも通用するものだった。

ほかの入賞作やファイナリスト作品いずれも、示唆に富み勉強になった。
政府の「SDGsアクションプラン2019」の柱の一つが「女性と次世代のエンパワーメント」だが、すでに次世代は走り始めている。大人は、彼らの創意工夫を、「荒唐無稽、そんなの無理、非現実的」と否定するのではなく、実現にむけ支援、コーチングすることだろう。なお、今回受賞5チーム中3チームは女子チーム、2チームが男女混合チームで授賞式に出席した男子は1名。「女性のエンパワーメント」どころかSDGsは女子が引っ張っている。2030年には「男子のエンパワーメントが必要」といわれるかもしれない。

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