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英国の総選挙でBrexit問題は解決されるのか

2019年11月21日

経済調査部 主席研究員 山崎 加津子

英国で12月12日に下院選挙が実施される。与党の保守党と最大野党の労働党が今回の繰り上げ総選挙に合意したのは、EU離脱(Brexit)問題の行き詰まりを打開するためだが、果たして総選挙実施が打開策につながるだろうか。

ジョンソン首相が狙うのは、10月にEUと合意した離脱協定に基づくBrexitを、離脱期限の2020年1月31日までに実現させることである。離脱協定の発効に必要な英議会の承認を確実なものにするため、保守党単独での過半数議席の獲得を目指している。一方、労働党のコービン党首は自身が首相に就任すれば、離脱協定についてEUと再協議し、新たな離脱協定でのBrexit実現か、あるいはEU残留かを問う国民投票を実施するとしている。労働党のBrexit計画が離脱と残留の両にらみになっているのは、コービン党首以下の執行部がEU離脱を支持する一方、議員の多くがEU残留を望んでおり、党内の意見が一本化されていないためである。

これまでのところ、ジョンソン首相の思惑通りに事態が進行していると見受けられる。まず、国民投票のやり直しではなく総選挙の実施に持ち込んだことで、Brexit実現の可能性が高まったと考えられる。下院選挙は完全小選挙区制を採用しており、650の選挙区それぞれで得票率1位の候補者が当選する。このため、EU残留支持を明確に打ち出している自由民主党、緑の党、スコットランド民族党(SNP)などの小政党に不利である。自由民主党はEU残留支持者が多いイングランド南部で、SNPは地元のスコットランドで議席を増やすと見込まれるが、保守党を脅かす存在になるとは予想されない。

加えて、労働党の党首がBrexit支持者であると同時に、水道や鉄道の再国有化、富裕層に対する課税強化を主張する最左派のコービン氏であることも、保守党に有利に働くとみられる。自由民主党はコービン氏が率いる連立政権には加わらないと表明しており、コービン党首のままでは、与野党の議席数が拮抗した場合でも、保守党に対抗し得る野党連合が実現する可能性は低い。なお、EU離脱の早期実現を主張するBrexit党が、保守党と競合する可能性がある選挙区に候補者を立てないと決定したことで、この両党がEU離脱派の票の争奪戦をしているすきに、野党候補が「漁夫の利」を得る可能性も低下した。

最近の世論調査で保守党は支持率トップの座を維持し、第2位の労働党に10%前後の差をつけている。選挙戦は残り3週間余りあるため結論づけるのはまだ早いが、この世論調査に近い投票が行われれば、保守党が単独過半数を獲得し、ジョンソン首相が目指す「合意ありの離脱」に向けて大きな一歩となる。この場合、「合意なしの離脱」が回避されることに加え、「EU残留」の可能性もなくなり、2016年6月の国民投票でBrexitを決めてからの3年半余りとは大きく違ってくる。

ただし、英国を拠点に活動する企業にとって最大の関心事である、Brexit後の英国とEUの新たな通商関係については、不透明感はまだ晴れない。両者の正式な協議はBrexit後に開始されるが、「移行期間」が終わる2020年12月末までに新たな通商条約を締結することは難しいと予想される。「移行期間は絶対に延期しない」とのジョンソン首相の主張は、今年10月31日のBrexit期限をあっさり延期したことを想起すれば、重く受け止める必要はなさそうだが、EUとの通商関係が明確でない状態がいつまで続くのか、先を見通しにくい状況が継続しよう。

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