米国レポ市場の動揺と私たちの暮らし

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2019年11月13日

  • 土屋 貴裕

9月半ばに、米国の短期金融市場で一部の短期金利が急上昇した。目立って上昇した短期金利は、レポ市場と呼ばれる市場の金利であった。その対応としてFRBがレポ市場に大量の資金供給を行い、臨時の金融政策決定会合を開催して大規模な資金供給を続けることを決めて、金利はなんとか落ち着いた推移となっている。

短期金融市場に出回る資金が減少し、資金の需給バランスが崩れたためだが、市場に出回ってもよいはずの資金として、中央銀行であるFRBに金融機関が預けている準備預金などがある。9月半ばもそうであったが、税金や国債購入の代金が政府に納められると、金融機関がFRBに預けている準備預金の相当額が政府の預金口座に移動して、市場に資金が出回りにくくなる。また、FRBが量的緩和政策で拡大したバランスシートを縮小させたが、その間も銀行券(紙幣)の発行量は徐々に増加を続けた。中央銀行のバランスシートのうち、負債側は主に銀行券と準備預金で構成されるため、銀行券が増えると、全体が同じ額であっても準備預金は徐々に減少してしまう。さらに、金融危機を教訓にした金融規制も関係してくる。大手金融機関を中心に流動性の高い準備預金などの一定の資産の保有が義務付けられ、短期金融市場に資金を出しにくくなっているのである。

日常生活において米国のレポ市場はほとんど無関係だが、問題が生じると間接的に多くの人に影響する。レポ市場は米国だけではなく、各国の金融機関などがドル資金を調達する場でもある。日本を含む米国外の投資家はレポ市場などで資金を調達し、様々なドル建て資産に投資しているが、ドルが調達しにくくなると投資活動が困難になってしまう。また、ドルが調達しにくいということはドルの希少性が高いということであり、外国為替市場ではドル高に作用する。これは世界中の多くの人たちにも影響が及ぶ話題だ。投資や輸出入のみならず、輸入物価の上昇または下落で、所得の価値や日々の生活水準が変わってしまうことも考えられよう。

中央銀行が短期金融市場で債券の売買などを行って、資金を供給したり吸収したりすることを金融調節と呼ぶが、大学などで金融政策を学ぶ機会があっても金融調節の詳細が語られる機会は少ないだろう。企業などにおいても、世界的に量的緩和政策などが採用されて以降、短期金融市場の波乱要因は減り、中央銀行の金融調節をウォッチする人は減少しているのではないか。だが、再び短期金融市場の波乱要因が増える可能性が高まっている。世界の経済や市場のつながりが深化し、海外で起きる出来事が自分たちの生活に影響するのであれば、短期金融市場の理解が欠かせないだろう。

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