ラグビーワールドカップの戦いと企業経営への示唆
2019年11月07日
ラグビーワールドカップ日本大会は、南アフリカの優勝で幕を閉じた。
ティア1と呼ばれる強豪国・伝統国以外で初めて開催された大会であり、大会前は観客動員などいろいろな問題が懸念されていたが、予選リーグからスタジアムはほぼ満員の観客で埋まり、ホスト国の日本の躍進もあって大会は大成功であったといえる。
今大会で大きな躍進を遂げた日本代表や強豪国の戦いぶりを見て、企業経営に通じるものがあると思った。
日本代表が躍進した要因は三つある。
まず第一に、体格で劣らない外国出身選手を含む強力メンバーを招集したこと。ラグビーでは一定の条件を満たせば、外国籍の選手も代表になることができる。例えばラグビーの母国イングランドは、前回大会で開催国として史上初の予選リーグ敗退という屈辱を味わったが、オーストラリア出身のエディ・ジョーンズ氏(前日本代表ヘッドコーチ:以下HC)をHCに迎え、南太平洋諸国出身のヴニポラ兄弟やツイランギ選手など多くの強力な外国出身選手がチームを牽引した結果、今大会では決勝にまでコマを進めた。
次に、優れたコーチングスタッフによる勝つための戦術を開発したこと。日本代表はニュージーランド出身のジェイミー・ジョセフHCのもと、戦術オタクともいわれるトニー・ブラウン攻撃コーチ、弱点だったスクラムを強みに変えた長谷川慎スクラムコーチなどが、チームの特性に適合した戦術を磨いていった。
最後に、選手が勝つことを信じてハードワークに耐え抜いたこと。日本代表は決勝トーナメント進出という目標を設定し、4年間にわたり多くの犠牲を払い300日近い合宿で心身を鍛え上げた。
予選リーグにおいて優勝候補の一角のアイルランドを倒した後の各選手のインタビューを聞いて驚いた。誰もが口を揃えて「我々は勝てると信じていた」と言っていたのだ。まさに「信は力なり」である。
ここで忘れてはならないのが、三つの要因がうまく融合したことにより、大きな力を発揮したという事実である。
多様なバックボーンを持つ選手たちが、大きな目標に向かって行動を共にして信頼関係を築いていった結果、強力な「ONE TEAM」ができあがったのだ。
企業経営になぞらえると、明確なビジョンの下で優れた経営者が多様性のある人材を適材適所に配置し、価値観を共有しながら具体的なPDCAサイクルを回していくといったところだろうか。
株式時価総額世界トップ50社をティア1企業とすると、平成元年には日本企業が32社を占めていたが、令和元年には1社のみとなってしまった。まことに残念である。
世界トップ企業が多国籍企業へと変貌し、世界経済の成長を享受しているのに対し、多くの日本企業が、世界で戦うために変革することなく、古い日本的な体質を温存してきたからであろう。
日本ラグビーが長い低迷から脱して躍進を遂げたように、日本企業もダイバーシティ経営によって弱点を克服し、世界で輝いてもらいたいと願う。
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コーポレート・アドバイザリー部
主席コンサルタント 太田 達之助
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