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インドネシア未来予想図

2019年08月28日

リサーチ業務部 主席研究員 兼 YSXアドバイザー 佐藤 清一郎

熱帯気候に属し、一年中、概ね温暖な気候が続く東南アジアの国インドネシア。アセアンでの存在感は絶大で、アセアン統計年鑑2018によれば、アセアン全体人口の約40%、経済規模の約37%をインドネシアが占めている(2017年末時点)。また、アセアンでは、唯一、G20に加盟している。

筆者は、1995年から4年ほど、JICA(国際協力機構)コンサルタントとして、インドネシア長期経済計画モデル策定のプロジェクトに従事した。インドネシア人との仕事は、これが初めてであったため、ジャムカレット(ゴムのように伸びる時間)と呼ばれるインドネシア独特の時間感覚やイスラム教の宗教慣習等を含め、様々な点で戸惑うことも多かったが、いずれもが異文化理解であったと考えれば、かなり貴重な体験をしたことになる。

プロジェクトでは、中長期について、労働量、資本ストック等の将来推計を行った上で、それらを制約条件として、いくつかの目的関数を設定し、線形計画法の手法を用いて、それぞれの最適成長経路を探った。モデルの中には産業連関表も組み込んだため、中長期の産業構造の姿を描き出すことも可能となり、完成した長期経済計画モデルは、未来の経済の姿を映し出すツールとして活用されるはずであった。しかし、1997年7月に、タイ通貨バーツの急落を契機に発生したアジア通貨危機が、そのもくろみを大きく覆すことになる。インドネシアでは、急激な為替減価により、海外からの輸入が困難となり国内の経済に支障をきたしていた。また、短期の対外債務の返済も困難となりデフォルトが発生、多くの企業が倒産に追い込まれた。経済混乱の中で、街中では、暴動が起こり、スハルト大統領は退陣を余儀なくされた。まさに、秩序のない状況に陥ったのである。あっという間に、政治、経済の安定が失われた状況を目の当たりにして、金融危機は、本当に怖いと実感した瞬間であった。この混乱により、日本の援助姿勢も変化を余儀なくされ、長期経済計画モデル策定のプロジェクトは中止となってしまった。今思うと極めて残念なことであったが、アジア通貨危機の衝撃の大きさを考えれば、致し方なかったのであろう。

プロジェクトは中止となったが、構築された長期経済計画モデルが有効活用されたと思われた瞬間はあった。経済混乱が続く中で、長期経済計画モデルの結果を利用して、インドネシアの将来展望を強く訴えた人物がいたのである。その人物は、現在、財務大臣となっているスリ・ムルヤニ・インドラワティ氏である。彼女は、筆者の参加した長期経済計画モデル策定プロジェクトのインドネシア側のカウンターパートであった。彼女とは、長期経済計画モデルの構造や分析手法、そして、必要なデータ等について、度々議論を重ねる機会があったので、彼女自身も、将来の経済の姿を描くモデルの有用性を認識してくれていたのだと勝手に思っている。非常な混乱期であり、将来が見通せない状況の中で、どれだけの人が聞く耳を持ったかは、わからないが、現在、多くのインドネシア人が、彼女が財務大臣であることに安堵している。彼女は、非常にスマートな人間で、彼女に任せておけば、インドネシア経済は、おかしな方向に進むことはないと多くの人が信じているのである。筆者も、同意見で、インドネシアの潜在力をいかに顕在化させるか、彼女の手腕にかかっていると言っても過言ではないかもしれない。

過去のプロジェクトに携わった経験からすると、インドネシアの統治機構は、1997年のアジア通貨危機を契機に、独裁から民主化の方向へと大きく転換したと実感している。役所の人々の仕事のやり方も、以前と比べて、相当に変わった。引き続き、人々の宗教心は強く、時間厳守でないところも多いが、それも、経済発展が進むにつれて、少しずつ変化してきているように感じられる。基礎的インフラや産業基盤に関しては、依然として多くの課題を残しているが、年々、状況は着実に改善してきている。ジャカルタ周辺を中心に工業団地は増加、第二の都市スラバヤでも開発は進み、最近では、ジャワ島中部のスマランでの工業開発が注目されてきている。2019年3月には、日本の援助により待望の地下鉄南北線の一部が操業を開始して、主なショッピングモール(プラザスナヤンやプラザインドネシア等)、日本大使館、アセアン事務局、そして、インドネシア証券取引所に、地下鉄を使って訪問することが可能となった。今後も、順次路線延長や新たな路線の設置が見込まれており、市内の渋滞によるストレスが少しは緩和されるであろう。また、タムリン通りやスディルマン通り等の幹線道路周辺を中心に高層ビル建設も続いており、ジャカルタは商業都市としての風格を漂わせ始めている。プロジェクトに関わり始めた20数年前、そして、アジア通貨危機が生じた後の数年の光景からは、とても想像もつかないほどの変化である。

人口減少が続く日本とは対照的に、インドネシアの人口は、そう遠くない将来、3億人に到達するであろう。現在のようなペースで経済発展が続いていけば、この人口規模は、国力を高める大きな力となる。インドネシアが将来、政治及び経済において、かなり影響力を発揮するような国になっていく姿が思い浮かぶ。重要な友好国、そして、投資対象国の一つとして、多くの人が、インドネシアに対して、更なる関心を寄せることを願ってやまない。

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執筆者紹介
リサーチ業務部
主席研究員 兼 YSXアドバイザー 佐藤 清一郎