SDGs達成に向けた水素という選択
2019年07月03日
酸素と反応させても温室効果ガスを排出しない水素は、化石燃料に依存してきた仕組みを変える選択肢の一つとして期待されている。原子番号1の水素は極めて軽く、水素単体では自然界にほとんど存在しないが、水などの化合物の形で地球上に豊富に存在する。水を電気分解することなどで製造できる水素は、気体や液体の状態でも貯蔵・輸送することが可能で、FCVなどの移動体の燃料以外にも、再生可能エネルギーに由来する電力の調整や災害時の予備電源などに利用することができる。水素に対する関心は、アポロ11号に燃料電池が搭載された頃から広がりはじめ、多くの国や地域で研究や開発が進められてきた。
日本は、2014 年 4 月の第4次エネルギー基本計画の中で、水素を将来の二次エネルギーの中心的な役割を担うものと位置付け、同年6月には水素の本格的な利活用に向けた「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定した。17年12月には世界に先駆けて水素社会を実現するための「水素基本戦略(※1)」が示され、第5次エネルギー基本計画(18年7月)にも、水素社会の実現に向けた取組の抜本強化が謳われた(※2)。これらの戦略や基本計画を反映した新たな「水素・燃料電池戦略ロードマップ(※3)」(19年3月)には、産学官が相互に連携して目標を実現していくための具体的なアクションプランが盛り込まれている。
エネルギー転換や脱炭素化が求められる時代を迎え、国際社会でも水素の本格的な利活用に向けた連携や協力を進める動きが広がっている。世界21の国・地域・機関の代表などが集い、東京で開催された「水素閣僚会議(※4)」(18年10月)では、「東京宣言(Tokyo Statement)」が取りまとめられ、水素社会実現に向けて協力していくことの重要性が確認されている。このような認識は、「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合(※5)」(19年6月)でも共有され、日米欧の間では、水素・燃料電池技術に関する協力を強化することを謳った共同宣言も発表されている(※6)。
政府が19年6月に閣議決定した「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(※7)」では、水素はエネルギー転換だけでなく、“脱炭素化ものづくり”を実現するための選択肢の一つと捉えられている。最近では、二酸化炭素に水素などを加えて素材や燃料として再利用する、カーボンリサイクルの取組なども進められているという(※8)。SDGs達成に向けて、商品やサービスを見直し、ビジネスプロセスやサプライチェーンを再構築する際に、水素は有力な選択肢の一つになり得る。そして、持続可能な成長に向けたイノベーションを引き起こす上でも、水素は可能性を秘めた選択肢の一つになりつつあるように思える。
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