効率化×保守性=“継続的”な生産性向上

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2019年07月01日

  • データアナリティクス部 主任コンサルタント 岡本 紘和

2019年4月より、「ワーク・ライフ・バランス」と「多様で柔軟な働き方」の実現を目的とした働き方改革関連法(※1)が順次施行されている。これにより、企業は法律で明記された労働時間の上限を厳守しなければならない。経営者は、時間的制約下で、社員一人ひとりに対し、これまで以上に労働生産性の向上を求めることになるだろう。これに応えるべく、現場ではさまざまな業務の効率化に取り組んでいるが、これを継続的に行うことは難しい。約10年間IT業界に従事した筆者の観点から効率化を行うために大切なことについて記載したい。

まず、労働生産性とは「投入時間(人員)」に対して「どれだけの成果」を生み出したかにより算出される。労働生産性を向上させるためには「投入時間」を少なくするか、「成果」を上げるかだ。今回は「投入時間」を減少させるための「効率化」に焦点を絞る。

IT業界で「効率化」と言えば多くの場合、「自動化」のことを思い浮かべることだろう。自動化する範囲や規模に応じ、システム開発を行うことになる。一度、自動化をしてしまえば投入時間は減少する。さらに、自動化は、人に依存することなく投入時間が一定化し、成果物も一定水準に担保されることから大きなメリットが得られる。

一方、自動化する際に留意しなければならないことの一つとして「保守性」がある。自動化したシステムは時の経過とともに、必ず変更の必要性が生じる。この変更に対応できないシステムは、「サービス終了」となる。筆者は、「保守性」が考慮されずに開発されたシステムで、仕様変更等により使用されなくなったものをいくつも見てきた。

また、過去に筆者は、日次でエラーログをグラフ化し分析する業務に従事していたことがある。ログをグラフ化する業務は、EXCELマクロ(以下「ツール」という。)により自動化されていた。ツール開発時は1つのログファイルからグラフ化する仕様であったが、次第に、複数のログファイルからグラフ化することを求められるようになった。このツールは開発時に、「コードの読みやすさ」や「変更のしやすさ」について考慮されておらず、「設計書」も整備されていなかった。すなわち、「保守性」を全く考慮されず開発されたものであったため、当然、このツールを改修するのには苦労した。その結果、効率化のために開発したシステムの改修に、膨大な時間と労力を費やすといった状況に陥ってしまった。

短期的に業務を効率化する場合、「保守性」を考慮せず開発されてしまうことが多い。そのような場合、一時的に自動化のメリットを享受できたとしても仕様変更等による保守時に自動化のメリットを維持することが困難になる。自動化したメリットを維持するためには、保守性の向上が欠かせない。

「保守性」を十分考慮するということは、「将来の変更を予測すること」になるので簡単なことではない。その簡単でない作業を行うことによって自動化したメリットを維持することができる。

今後もさまざまな場面で効率化は求められるだろう。その際、「将来どのような変更が生じるだろうか?」という「保守性」を意識して長く使えるシステムを開発することが重要である。変化の激しい時代であり将来を予測することは非常に難しいと思われるが、常日頃から一歩先のニーズを捉えるような意識付けが、「“継続的”な生産性向上」に繋がっていくのではないだろうか。

(※1)働き方改革関連法 … 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律

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岡本 紘和
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