副業への期待とギグエコノミー

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2019年06月20日

  • 経済調査部 市川 拓也

6月5日に開催された第28回未来投資会議の「成長戦略実行計画案」(※1)には、副業のメリットについての記載がある。2割の副業者から本業へのモチベーション等が高まっているとの回答があったことが示されている。また副業経験者については、思考・分析能力が求められる仕事で本業の賃金の上昇が顕著である点にも言及がある。

たしかに、一つの会社に勤務し、一つの仕事だけに就いているよりは、異なる企業風土の中で別の仕事にも挑戦する方が新たな経験や学びによって得られるメリットは大きいであろう。本業とは別に収入が得られることで、金銭面から生活水準の向上も期待できる。本業に従来にない発想を持ち込むことができれば、周囲を巻き込みつつ全体の生産性を高めることができるかもしれない。副業の普及は、今後の日本における労働のあり方を左右する可能性もあろう。

副業であれば、その都度仕事を受注する単発型の仕事がなじみやすい。現代ではインターネットを通じて単発の仕事を見つけやすくなっており、こうした仕事はしばしば「ギグエコノミー」と表現される。「ギグエコノミー」はネガティブな側面で捉えられることがあるが、本業を持たずに単発の仕事のみを行う場合、収入が不安定となることや労働者保護の対象にならない点が要因となっている。

これらの問題の典型的な例として挙げられるのが、日本で禁止されている「ライドシェア」のドライバーを巡る問題である。Uberをはじめとするライドシェアを巡っては、競争相手となるタクシー事業者が世界各地で激しく抗議してきたが、5月8日には当のライドシェアのドライバーがシェア事業者に対して、待遇改善を求めて世界の複数の地域でストライキを行っている。同月14日には、全米労働関係委員会がUberのドライバーは“independent contractors”(独立請負業者)であるとの見解を公表している。

海外でライドシェアのドライバーが独立請負業者なのか否かを巡っては、未だ見方は定まってはいない。本業を持ちつつ副業で行うケースも想定されるが、ライドシェアのドライバーを巡る問題の本質は、労働提供者の保護が十分でないことにある。仮に今後、日本で「ライドシェア」について議論されることがあるとすれば、企業に雇用されている者(タクシー会社勤務を含む)が副業で行うことを最低限の条件とするといったことも検討に値するかもしれない。単発の仕事で生計を立てることを否定するつもりはないが、多くの人にとっては副業(サイドギグ)で得た経験を本業に活かすことで、大きな価値を得るのではなかろうか。

(※1)令和元年6月5日、資料1

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