インバウンド4,000万人のカギはコスタリカにあり?

~エコツーリズムの魅力と課題~

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2019年06月10日

  • 鈴木 雄大郎

2018年夏に旅行でコスタリカに行った。コスタリカがどこにあるか、どのような国で何が魅力なのかを知っている人は少ないのではないだろうか。日本では馴染みの薄い国だが、実は欧米では観光地として有名である。

中米といえば「マヤ文明の遺跡」というイメージを持っている人もいるかもしれないが、コスタリカにはグアテマラのティカル遺跡や、ホンジュラスのコパン遺跡のような世界的に有名な遺跡は存在しない。コスタリカの最大の魅力は「自然」である。多くの欧米人は、熱帯雨林や火山、野鳥、ウミガメなどを見るためにコスタリカを訪れる。太平洋側からカリブ海側にかけて自然豊かな各地を2週間から1ヶ月以上かけて巡るのが主な楽しみ方だ。筆者も飛び込みで10時間ハイキングするツアーに参加したが、コスタリカの自然を体感できたことは非常に新鮮であった。同じツアーに参加したカナダ人やスウェーデン人も、滝での水遊びや火山見学など、自国では味わうことができない体験に興奮していた。

翻って日本を見ると、四季折々で違う景色があり、北海道の銀世界から沖縄の美ら海まで全国各地、多様な自然を有する。日本を訪れる外国人も、コスタリカに引けを取らない体験ができるのではないだろうか。しかし、観光庁が2018年に行った調査(※1)によれば、訪日外国人のうち、滞在中に四季の体感や自然体験ツアー・農漁村体験を行ったのは全体の1割程度にすぎない。訪日外国人の多くは、中米各国の遺跡と同様に寺社仏閣などの歴史的建造物を観光し、日本食などの「文化」を体感し、買い物を楽しむことが目的である。

日本人にとっては見慣れた景色でも、そうでない外国人にとってはどれも新鮮に映るはずだ。このところ訪日外国人数は年率3,000万人強で頭打ちとなっているが、4,000万人の政府目標の達成に向けて、エコツーリズムの強化がインバウンド拡大の起爆剤となる可能性を秘めている。

日本のエコツーリズムが抱える課題としては、外国語表記の案内板の少なさや、外国語対応可能なガイドの不足、Wi-Fi環境の未整備、外国人へのPR不足などが考えられる。観光庁が2018年度に行ったアンケート調査(※2)では、「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」(20.6%)、「多言語表示の少なさ・わかりにくさ(観光案内板・地図等)」(16.4%)が上位にある(複数回答)。今後、観光庁をはじめとする政府や地方自治体、民間の旅行代理店、さらには地元の諸団体などが連携してこうした問題に取り組み、日本の自然の魅力を世界の人々に広く情報発信することが、4,000万人の目標達成にとって重要だ。

(※1)訪日外国人消費動向調査
(※2)訪日外国人旅行者の受入環境整備に関するアンケート(平成30年度)

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