企業価値を高める防災への取り組み

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2019年06月05日

  • コンサルティング本部 顧問 三好 勝則

我が国では、自然がもたらす災害による犠牲を強いられてきた。人工的に構築されてきた都市においても、風水害や大規模な地震など自然の脅威にさらされている。政府の中央防災会議によれば、政治、行政、経済活動の中枢を担う機関が集積している首都を襲う直下型地震により、建物倒壊や火災等による多くの人的被害と合わせ、莫大な経済被害(損失)が生じると想定される。建物や構造物の損壊、償却資産の喪失など直接的経済被害は、民間部門で42.4兆円と見込まれる。経済被害はこれにとどまらない。生産・サービスの施設への被害とサプライチェーンの寸断による生産額の減少など多様な要素が関係し、政府が、定量化が可能な項目について被害額を推計したところでは、生産・サービスの低下に起因する経済活動への影響額は全国で47.9兆円とされる。さらに、交通寸断による機会喪失が生じ、交通網のうち道路と鉄道の機能停止(6ヶ月間で推計)による人流物流の取りやめと迂回に起因する影響が7.7兆円と見込まれている(※1)。

都市は、人が集まり、生産、取引、教育、文化などの活動を行う中心地である。SDGsの目標11は、「都市と人間の居住地を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にすること」(※2)として、2030年までに、直接的被害を大幅に減らすことをターゲットとしている。企業は、耐震性のある良質な建築物の開発、設置で役割を果たせる。また、火災や地震による危険性が指摘されている木造密集市街地では住民の高齢化率が高く、企業は行政や住民と連携してまちの改造を進めることで、安全性を向上させることができる。

膨大な被害予測に立ち向かうには、住民一人ひとり、活動している企業それぞれが取り組むことが大きな要素となる。企業が、災害への対処を行うことは、企業にとって被害を小さくし、利用者に製品・サービスを供給し続けることができ、住み続けられるまちづくりに一役買うことになる。まず、建物の耐震化や火災に備えた設備の点検、サプライチェーンの確認などから取り組みを始める。インフラやライフラインなどの外部要素に影響される場合は、代替できる機能や場所を考えておく工夫も必要である。BCPやBCMの調査検討・策定は、これらを確認する手段となる。

高度に成長した日本において、それぞれの企業は率先して防災に取り組み、目標にできるだけ早く到達し、その成果を世界に示す使命を負っている。また、その取り組みが企業価値を高めることに繋がると考える。

(※1)中央防災会議 防災対策推進検討会議 「首都直下地震対策検討ワーキンググループ最終報告」2013年12月19日
(※2)国際連合広報局

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