東南アジア3大仏教遺跡巡り

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2019年05月29日

  • 佐藤 清一郎

国境を越えた人々の動きが年々活発となっていることを反映して、世界の観光市場は拡大を続けている。国連世界観光機関のデータによれば、1990年に約4億人であった外国人旅行者数は、2017年には約13億人と3倍以上に増加した。また、外国人旅行者数は今後も増加を続け、2030年には約18億人に達するとしている。

世界的に観光ビジネスの更なる拡大が期待できる環境下、アセアンの動きはどうかと見ると、世界全体の外国人旅行者数の内でアセアンが占める割合は、2000年5.3%、2010年7.4%、2017年9.0%と着実に上昇してきており(出所:国連世界観光機関)、全体としては、良い流れに乗っていると言える。ただ、加盟国別で見ると、2極化した状況にあり、手放しでは喜べない事情もある。旅行者数が多いのは、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナム、 一方でそれほど多くないのが、フィリピン、カンボジア、ラオス、ミャンマーなどである。2極化は、観光振興策に関する国家戦略の違いが反映された形で、後者の国々の対策は、前者の国々より、かなり遅れている。

旅行者数が多いタイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナムでは、ホテル、レストラン、エンターテインメントなど観光関連インフラのレベルは、ハード・ソフトともにかなり上がってきている一方で、観光振興策が遅れている国々では、それほど高くなく集客の障害となっている。理想的には、2極化が解消され、アセアン加盟国すべてが観光で外貨を稼げる状況を作り上げることであるが、インフラ整備状況の格差は大きく、それほど簡単なことではない。

ここで、観光振興策が遅れた国々を盛り上げて2極化を是正する手段の一つとして、「東南アジア3大仏教遺跡巡り」ツアーを、より戦略的に活用するのは、どうであろうか。アセアンには、カンボジアにアンコールワット、インドネシアにボロブドゥール、ミャンマーにバガンという3つの代表的な仏教遺跡が存在する。それぞれが仏教に根差した遺跡であるものの、その景観や規模感は、それぞれ特徴あるものとなっており興味深い。これらを同時に訪れ、相互比較を行うことで、共通点や相違点を発見して、歴史的建造物への理解がより深まることを考えると、短期間に要領よく3ヶ所を同時に巡るツアーが生み出す新たな付加価値は大きいであろう。このツアーへの需要が高まれば、遺跡周辺での、ホテル建設、レストラン開業等の動きが加速して、関係国の経済成長に寄与していくことが期待できる。

3ヶ所を短期間に同時に訪問するツアー実現に向けての大きな障害は、やはり交通インフラの未整備である。3ヶ所は、各国の首都とは別の場所にあり、アクセスが必ずしも良いとは言えない。また、相互に直行便がないため、同時に訪れようとすると、それなりの日数を必要とし、短期間に効率よく訪問したいニーズには応えられない。直行便が就航すれば障害の多くは解決するが、既存の空港の規模は、それほど大きくないため、遠距離路線の大型旅客機が利用できる構造になっていない。そのため、直行便開設には、空港拡張や新空港建設が必要となり、資金手当てを含めて、やや時間を要する話となるかもしれない。ただ、直行便就航までは時間がかかるとしても、主要都市間の直行便開設や、主要都市と仏教遺跡地区を結ぶ交通インフラの改良余地は残されており、これらに関係する取り組みは可能であろう。交通インフラ整備が進み、3ヶ所の相互移動の利便性が高まれば、休暇が短い人でも同時訪問が可能となり潜在的な需要が顕在化してくることが予想される。今後、「東南アジア3大仏教遺跡巡り」ツアーが、ポピュラーな観光ルートとなり、アセアン経済の発展に寄与していくことを期待したいところである。

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