退職給付債務計算プロセスを人事戦略に活かせ
2019年05月16日
春先の社員食堂には元気のある新入社員があふれている。日頃から退職給付債務計算のコンサルティングサービスを業務としている筆者が、「この若者達は何年後にどのくらい辞めるのか」と考えてしまうのは一種の職業病なのかもしれない。
退職給付債務計算という業務は、顧客企業の人事部門からデータをご提供いただき、計算結果を経理部門で決算用の数値としてご活用いただく裏方業務である。退職給付債務計算の結果は、決算のための報告用資料にとどまりがちだが、退職給付債務計算の計算プロセスをうまく活用すれば、企業の健康バロメーターにもなる。また、退職者の定性分析や人事関連の制度設計に結びつけることで、会社を成長させるための人事戦略に活用できると考える。
退職給付債務計算の計算プロセス活用の第一歩は、在籍している従業員の年齢構成と過去数年の退職者傾向を把握することである。退職者データの分布表をお客様と眺めながら、「なぜ、この世代がこんなに辞めているのだろうか」、「働き盛りの30代の退職率が高いのには何か理由があるに違いない」というお客様の疑問の声をうかがう機会も多い。過去のデータと比較すれば、特定の年齢層に「辞めたい病」が蔓延し始めた兆候を早期発見できるかもしれない。現状分析で退職者の傾向を把握できたら、併せて現時点の退職率が続く前提で採用条件を設定し、「将来予測シミュレーション」を行うことも良いだろう(※1)。将来の人員構成が予測できれば、バランスのとれた採用計画を検討する際に役立ち、また人件費等のシミュレーションにも応用できる。
定量分析が終わったら、人事部門等と連携するなどして定性的なデータと突合する。組織別・職種別に要因分析を進めれば、多くの退職者を生みだしている原因(報酬、制度、人的要因等)を見つけることができるだろう。
原因を特定したうえで経営者や経営企画部門を参画させ、自社を成長に導くために必要な人物像に基づく「採用ビジョン」を明確に定める。そして、その「採用ビジョン」のもと、将来的に人員バランスのとれた「採用戦略」と、優秀な人材が持続的に活躍できる「制度設計」を両輪とした人事戦略を描いていくことが望ましい。
制度設計は、特に重要である。例えば、報酬重視が原因であれば、人事評価制度を改善することが有効となる。また、働き方改革ブームへの対応とあわせて、フレックス制や在宅勤務制の導入、時間単位休暇の取得等の勤務制度を改善・多様化し働きやすい環境の構築も効果的である。能力と可能性を秘めた新入社員が、3年後、5年後、10年後、20年後に開花できる環境を考えるべきでないだろうか。
多くの企業において、特定の世代に退職者が多い原因の究明は重要だと認識しながらも、暗いイメージの退職者対策よりも明るい採用中心の人事戦略の方が描きやすいだろう。退職と採用は表裏一体なので、退職者対策と採用戦略をセットで考えれば、より有効な人事戦略を描けるようになるはずである。
(※1)通常、外部の計算機関に依頼、もしくは退職給付債務計算ソフトを自社で有していれば、「将来予測シミュレーション」の結果を入手することは可能である。ただし、後者の場合は設定する前提条件についてアクチュアリー等の専門家と相談した方がよいだろう。
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