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ESG/SDGsに冷や水!金融取引税導入構想

2019年05月09日

吉井 一洋

2015年9月にGPIFがPRI(責任投資原則)に署名して以来、証券・金融市場においては、ESGへの関心が急速に高まっている。同じ月に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)や同年12月のパリ協定がその動きに拍車をかけている。そのような中で、わが国において、国際貢献の財源として、金融取引税などの国際連帯税の導入を模索する動きがある。

近いところでは、河野外務大臣の4月26日の記者会見での下記の趣旨の発言がある。

◇SDGsを達成するためには、毎年2.5兆ドルの投資が必要だが、ODAではこのギャップは埋められない。

◇昨年の難民・避難民は約7,000万人に達したが、気候変動の影響で自然災害が増え、さらにその数が増える可能性があり、人道的支援も必要である。

◇これらを踏まえ、わが国は「開発のための革新的資金調達リーディング・グループ」の議長を務め、議論を主導していきたい。

上記の発言では、ダイレクトに国際連帯税や金融取引税には言及していない。しかし、同グループが4月16日に国連本部で主催した「持続可能な開発のための革新的資金調達:規模とインパクト」という会合では、航空券連帯税とともに金融取引税が、革新的資金調達の好例として挙げられていた。外務省の平成31年度税制改正要望でも、国際協力を使途とする資金調達のため、国際連帯税の創設が挙げられていた。6月のG20大阪サミットで、ホスト国として提案しようとしているのではと思いたくなるところである。

金融取引税を導入している代表的な国としてはフランスが挙げられる。フランスは2011年1月にG20カンヌ・サミットのホスト国として、金融取引税を議題として取り上げる旨を発表した。ドイツとともに2011年9月に発表されたEU域内での金融取引税の導入案のとりまとめを主導し、自国でも2012年8月から、時価総額10億ユーロ以上のフランス国籍の上場株式の国内取引に対し購入代金の0.2%(※1)の税率で課税する税制を導入した。EUの金融取引税案は、株式に限らず債券、投資信託、デリバティブ、証券化商品も対象とし、国内取引に限らず課税するというものであった。金融危機後の金融機関等に対する厳しい視線とEU独自の税収確保という思惑が背景にあったとも言われているが、英国やスウェーデン(かつて類似の税の実施で資本流出を招いた)の反対などもあり、導入は見送られた(※2)。

金融取引税はわが国にかつてあった有価証券取引税に類似しているが、わが国の有価証券取引税は譲渡益課税の代替として導入された点で異なる。1989年4月に株式譲渡益課税が導入された後も、同税は存続し、1999年にようやく廃止された。その経緯を見てきた者からすれば、同様の税が復活することは悪夢でしかない。金融取引税の導入は、投資家の利回りや証券会社/金融機関の収益悪化、同税のない国への資本の流出を招きかねない。仮にESGやSDGsへの取り組みが同税の導入を招く可能性があるとすれば、証券/金融界のこれらへの自主的な取り組みに水を差すことにもなろう。もっとも、河野外務大臣が過去の記者会見等で言及しているのは、為替取引に課税するタイプのものである。しかし、それはそれで経済への多大な影響が懸念される。

仮に6月のG20大阪サミットで金融取引税導入が議題に上がったとしても、米国や英国の反対により、首脳宣言等として採択はされないと予想される。しかし、英国には譲渡印紙税があり、米国でも同様の税が提案されたことがある点を考えると安心はできない。証券・金融市場の関係者は、今後の政府の動きを注意深く見ていく必要があろう。それとともに、国際連帯税とは異なる革新的資金調達手法の開発に業界として取り組む必要もあろう。

(※1)当初0.1%の予定だったが導入時に0.2%に変更。現在は0.3%(2017年に改正)
(※2)その後、2013年2月にEU加盟国のうち11カ国を対象とする指令案が公表された(同年6月に一部修正)が導入には至っていない。

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