羽田新ルート問題で忘れてはならない視点

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2019年05月07日

  • 経済調査部 研究員 廣野 洋太

2019年4月に平成最後の統一地方選挙が行われた。筆者は首都圏在住であるが、居住する区議会議員選挙の争点で特に目立っていたのは、羽田新ルート問題である。羽田新ルート構想とは、羽田空港の国際線増便のために、陸地側の空域を新たなルートとして利用する構想である。訪日外国人を更に呼び込むため、2020年の運用開始を目指している一方、騒音や安全性への不安、保有する不動産価値の低下懸念などから新ルート付近の地域住民からは反対の声も多い。

筆者は新ルート構想自体には賛成である。しかしその議論の内容には違和感があり、地域住民の反発も、もっともだと思う。当然のことだが、羽田新ルートの恩恵を受けるのは付近の住民とは限らない。むしろ訪日外国人を惹きつける商品やサービスがなければ、新ルート付近の地域住民は、恩恵どころか騒音等の不利益ばかりを受ける可能性がある。こうした視点が抜け落ちたまま経済効果などが強調され、地域住民が置き去りにされている印象を受ける。

このように利益を受ける地域と損害を受ける地域が一致しないケースは、経済学の1分野である公共経済学において古くから研究対象とされてきた。対策としてまず挙げられるのは、両地域の交渉など当事者間での利害調整である。しかし、今回の問題では利益を受ける地域が広範に亘っており、対象地域の特定が難しい。

そこで、より現実的な解決策としては、国や都道府県など広域の行政機関が介入し、補助金などによって利害調整を行うことが挙げられる。日本では、自治体間の財源の不均衡を防ぐことを目的として、国が徴収した税金の一部を地方交付税として各自治体に再分配している。ただ、地方交付税は今回のような地域間の利害調整が目的ではないため、他の枠組みが必要だろう。例えば、2019年1月に導入された出国税は観光インフラの拡充・強化に使われることになっており、これを活用するのは一案である。

もちろん、教科書的に補助金を撒けばそれで解決する問題だとは筆者も思っていない。航空機の墜落や落下物への不安はお金で解決できるものではないだろう。しかし、新ルート付近の地域住民の中には他地域の利益のために不利益を被る人がいることは、経済効果の議論以前に忘れてはならない視点だと私は思う。

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