ガバナンス改革、次のテーマは?
2019年04月25日
2019年4月10日、金融庁と東京証券取引所が共催する「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(フォローアップ会議)において、意見書(案)「コーポレートガバナンス改革の更なる推進に向けた検討の方向性(案)」 が大筋で了承された。これにより、今後のスチュワードシップ・コード(SSコード)、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の見直しの方向性が明らかとなった。
注目点は?
SSコードに関しては、運用機関の情報開示の拡充、運用機関によるESGに関する対話の在り方の明示、企業年金によるスチュワードシップ活動の後押し、議決権行使助言会社に対する規律の強化、運用コンサルタントがスチュワードシップ活動の主体の一つであることの明確化、などが掲げられている。
しかし、それ以上に関心を集めているのが、昨年(2018年)改訂されたばかりのCGコードに関しても、次期の見直し事項が提示されていることである。具体的には、①監査に対する信頼性の確保(守りのガバナンス)、②グループガバナンスの在り方である。
「攻め」ではなくて、「守りのガバナンス」?
これまでのCGコードを巡る議論では、どちらかというと「攻めのガバナンス」が強調されることが多かった。今回の意見書(案)を契機に、いよいよ「守りのガバナンス」についても本格的な議論が開始されるものと考えられる。
フォローアップ会議が、特に問題としているのは、内部監査部門が経営陣のみの指揮命令下にあるため、経営陣が関与する不祥事に対して、機能不全に陥りやすいということだ。
実はこうした指摘は珍しいものではない。過去にも不祥事企業の第三者委員会報告が、同様の指摘を繰り返し行っている。しかし、内部監査や内部統制が、経営陣による社内の問題を把握するための仕組みとして構築されている以上、本質的に経営陣の暴走に対して脆弱性を抱えることは避けられない面がある。
フォローアップ会議は、これに対処するため、独立社外取締役を含む取締役会や、監査役などに対しても、内部監査部門から直接報告が行われる仕組みを確立する必要があると提言している。確かに、指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社のように、実質的に監査機関が取締役会の一部を構成しているのであれば、会社法上、内部統制システムの基本方針の決定権限を有することを根拠に、取締役会に内部統制、内部監査から直接報告する仕組みを構築することは想定できる。しかし、取締役会とは並列的に、別個に監査機関が存在する監査役会設置会社にとっては、難しい課題となる。もちろん、何らかの工夫によって、強力な調査権限を有する監査役(会)が、内部監査部門からの直接報告を得て、独立社外取締役とも円滑に連携できるようになれば、それは強力な「守りのガバナンス」の仕組みとなることだろう。
グループガバナンスで具体的に問題となっているのは何?
グループガバナンスについて、フォローアップ会議が、特に問題としているのは、子会社上場(親子上場)である。これも、過去に何度も指摘されてきたテーマである。もっとも、今回は、フォローアップ会議だけではなく、政府の未来投資会議や経済産業省のコーポレート・ガバナンス・システム研究会などでも議論が進められており、見直しの「本気度」は相当高いように見受けられる。
今後、一般株主保護等の観点から、子会社上場の合理性に関する親会社の説明責任や子会社ガバナンス強化(独立社外取締役の比率、独立性基準など)を中心に、規制強化の議論が進められるだろう。
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