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路面電車を都市再構築の契機に

2019年04月16日

金融調査部 主任研究員 中里 幸聖

栃木県宇都宮市で、2022年のLRT(Light Rail Transit:次世代型路面電車)開業を目指して、2018年から整備工事が進められている。我が国では、2006年に富山ライトレールが開業して以来の路面電車(LRT)の本格開業となる見込みである。

我が国の路面電車は、日清戦争中の1895年に京都で開業したのを最初に開業都市が増えた。1932年には65都市で運行され、運行都市数がピークとなった。その後、若干減少するものの、第二次世界大戦後暫くは都市交通の主役の一つであった。しかし、1960年代の急速なモータリゼーションの進展、バスや地下鉄への転換に伴い路面電車は廃止が続き、2019年現在17都市にまで減少している。

海外でもモータリゼーション進展等に伴い路面電車は邪魔者扱いされ、廃止される傾向にあった。しかし、1980年代から欧米を中心に近代化された路面電車(LRT)としての復活や新規導入が進められるようになった。UITP(Union Internationale des Transports Publics:国際公共交通連合)によると、1985年~2000年の間に42都市でLRTが開業し、それ以降2015年までに78都市で開業したとのことである。超低床車両導入、信用乗車制(乗客が乗車券を自己管理し、改札等を省略)や共通運賃制の採用等のハード、ソフト両面での路面電車システム自身の革新がLRT開業増加に貢献していると思うが、それ以上にLRT導入を契機とした交通まちづくり(以降で述べる交通を軸とした都市再構築)の進展が大きいと考えられる。

先進諸国を中心に1970~80年代頃から自動車交通の弊害(事故、公害、渋滞等)が大きくなり、欧州等で中心市街地への自動車流入を制限する動きが生じた。その際、トランジットモール(※1)等を導入すると共にLRTを都市のインフラに位置づけて都市空間を再構築し、中心市街地の活性化等が図られた。フランスのストラスブールの事例などが有名である。

我が国でもLRT導入を都市再構築の契機とした例として、前述の富山ライトレール導入が注目されてきた。富山市では、「鉄軌道をはじめとする公共交通を活性化させ、その沿線に居住、商業、業務、文化等の都市の諸機能を集積させることにより、公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくり」の実現を掲げ(※2)、「徒歩圏(お団子)と公共交通(串)から成るクラスター型の都市構造」を構築しようとしている。富山ライトレールを含むすべての鉄軌道6路線と幹線バス24路線を「公共交通軸」に設定している。

一方、宇都宮市は「人口減少社会において、人や企業から選ばれ、持続的に発展できるよう『ネットワーク型コンパクトシティ』の形成」に取り組むとし(※3)、「LRTは、総合的な交通ネットワークの基軸となる事業」としている。基幹公共交通として、JR宇都宮線、東武宇都宮線を南北、LRTを東西の軸に据え、主要バス路線等を幹線公共交通として基幹公共交通と連携させる構想である。

近年の洗練されたデザインのLRTは都市のイメージ向上に貢献している。また物理的に路線変更が容易であるバスと比較し、LRTは軌道であることによって継続的な開発が期待される。モータリゼーションの進展によって大都市の鉄軌道は地下に追いやられたが、中心市街地の賑わいが課題となっている昨今、中規模都市ではLRTを基軸に据えて中心市街地への自動車流入の制御(業務用を優先する等)を検討してもよい時期になっていると考える。宇都宮市のLRT開業が、他の都市にもある路面電車導入計画を後押しすることを期待している。

(※1)トランジットモールは、「商店街の自動車を排除した歩行者専用空間に、路面電車、バス、あるいはトロリーバス等路面を走行する公共交通機関を導入した空間」(国土交通省LRT等利用促進施策検討委員会「歩行者と路面電車の空間整備について~トランジットモールの導入に向けて~」より)である。
(※2)富山市『富山市総合交通戦略』(平成19年11月策定、平成25年1月追加・修正)より。
(※3)宇都宮市「全国から選ばれる『交通未来都市 うつのみや』を目指して(第1回取りまとめ)【概要版】」(平成28年8月)より。

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