蛇頭(スネークヘッド)を復活させないために

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2019年04月04日

  • 児玉 卓

このところ、日本の治安は改善の方向にあるらしく、警察庁の「犯罪統計」によれば、2018年の刑法犯検挙人員数は20.6万人、10年前の2008年(34.0万人)から40%近く減少した。同様に、外国人による犯罪も減少傾向にある。同じ期間、永住者や在日米軍関係者等を除く「来日外国人」の刑法犯検挙人員数は7,148人から5,844人に減った。減少率は18%程度と日本全体を下回るが、日本全体の人口が漸減する中で、来日外国人は順調に(年率2~3%のペースで)増えている。その結果、検挙人員数を人口で割れば、来日外国人の方が改善幅は実のところ大きいのである。

こうした事実は、入管法の改正によって外国人労働者の増加が想定される現在、より広く知られるべきことであろう。にもかかわらず、これらが「外国人受け入れ推進派」からも指摘されることが少ないのは、「検挙人員数/人口」(≒犯罪発生率)の水準自体において、外国人が日本全体を上回っているためであろうか。しかし、来日外国人の犯罪発生率は、政策次第で減らすことができる。究極的には日本全体の平均程度に収斂させることができるはずである。

現時点までの来日外国人による相対的な犯罪発生率の高さは、一部、不法滞在者による犯罪の多さの結果である。不法滞在者は定義によって、合法的な所得稼得手段を持たない。それが犯罪発生の主たる背景の一つであるとすれば、外国人による犯罪を減らすには、不法滞在者を減らすか、彼等・彼女等に合法的な在留許可を与えればよいことになる。

不法滞在者を大きく分ければ、(当初からの)不法入国者、及び、合法的な在留資格を失い不法化した滞在者の二つがある。後者に関して示唆的なのが、警察庁「来日外国人犯罪の検挙状況」(2016年3月)である。それによれば、「技能実習」による犯罪が、その人数の増加ペースを上回っており(=「技能実習」一人あたりの犯罪発生率が増加しており)、また「技能実習」の在留資格から不法残留状態になった者の検挙人員数が急増しているという。これが示唆するのは、「技能実習」という在留資格の不自由さ、外国人にとっての使い勝手の悪さである。労働条件の(時には不当な)劣悪さと、転籍・転職の困難さとの掛け算によって「技能実習」が不法化し(合法的な就労先を失い)、犯罪が誘発されているとすれば、犯罪を減らすために必要なのは、「技能実習」の不自由さを緩和・解消することに他ならない。つまり、外国人の犯罪の多さは、日本の制度設計の稚拙さの結果でもあり、ここから、外国人の増加は治安の悪化を招くから、その受け入れは必要最低限にすべしといった含意を導くのは、安直に過ぎるということになろう。

(当初からの)不法入国者との関連で思い起こすのが、かつて、しばしばメディアを賑わせた、蛇頭(スネークヘッド)という、主に中国からの密航者を斡旋するブローカー組織のことである。このところ、すっかりその名を聞かなくなったのは、日中の警備体制が強化されたためでもあろうし、日本がそもそも多大なリスクを冒してまで密航するに値する場ではなくなった結果でもあろうが、「留学」や「技能実習」など(不自由さはありながらも)残留資格を取得することのハードルが下がったことにも一因があろう。合法的な日本入国の可能性が高まったことで、不法な入国に対して外国の人々が抱く主観的リスクプレミアムが上昇したと考えられるのである。外国に対して門戸を開くことは、不法入国者を減らし、むしろ外国人による犯罪を減らすことにも貢献し得るということだ。

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