インフラ分野での第三国市場協力の取り組み
2019年03月08日
新興国の今後の人口増加により今後とも海外では膨大なインフラ需要が見込まれており、日本企業がこの分野の需要を取り込めば、裾野産業を含めて日本の力強い経済成長につながる。こうした考えに立ち、日本政府は2013年の「経協インフラ戦略会議」設置以降、民間のインフラビジネスを政府一体となって支援しているが、近年海外企業との第三国協力に向けた取り組みがなされている。その背景・意義としては以下の3点が挙げられる。
第一はコスト競争の激化である。インフラプロジェクトの受注に当たっては、欧米企業に加え、コスト競争力のある中国・韓国企業等との競争が激化している。日本企業が「質の高いインフラ」という強みを持ちつつ、コスト面での競争力をつけるために、価格競争力を有する他国企業と組むことによって「勝てる企業連合」を作る必要がある。
第二はビジネス機会の拡大である。仮に日本企業がコスト、リスク等の理由によってプロジェクトの受注者にならない場合においても、他国企業が進めるプロジェクトにサプライヤーとして参画することができれば、ビジネス機会の拡大につながり、企業ひいては日本の経済成長にとって有益である。
第三は政治・外交リスクの低減である。新興国においては、政権交代等によって大規模なインフラプロジェクトが進まなくなるポリティカルリスクがあるところ、日本よりもこれらの国との間に太いパイプを有する第三国と連携することによって、ポリティカルリスクの低減、効率的な売り込み、プロジェクトの円滑な遂行が期待できる。
事例を4つ紹介したい。第一に、日中間では2017年5月の日中首脳会談での合意に基づき「日中第三国市場協力フォーラム」が設立され、第1回会合が昨年10月に開催された。第二に、日米間では、2017年11月の首脳会談の際に「日米戦略エネルギーパートナーシップ」を進めていくことに合意し、日米はLNG(液化天然ガス)インフラ建設プロジェクト等の分野で連携することとしている。第三に、日印間では、昨年10月の首脳会談の際に両首脳は「アジア・アフリカ地域における日印ビジネス協力プラットフォーム」の設立に向けた議論を歓迎した。第四に、今年に入り、1月の日英首脳会談の際に両首脳は「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、質の高いインフラにおける日英協力の強化に一層力強く取り組むことで一致した。
こうした政府ベースでの動きを待つまでもなく、ビジネスの世界では様々な海外企業との協力が進みつつあると思われる。政府の後ろ盾も得つつ、「オールジャパン」の発想を超えた企業の取り組みが実を結び、日本経済が成長していくことを期待したい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日