変化し続ける統計の特徴

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2019年02月13日

  • 土屋 貴裕

筆者の社会人1年目、リサーチャーとしての新人の仕事の一つは、統計をもらいに行く、または買いに行くことであった。当時の大蔵省で貿易統計を、通産省で鉱工業指数を受け取り、そして経済企画庁の売店で販売されているGDP統計を買いに行くお使いである。GDP統計は309円だったと記憶している。似たような境遇の若者やバイク便業者などが列をなし、統計を入手すると、速報性を競うために会社に公衆電話から電話を掛けて数字を読み上げていた。出向かなくても電話を掛けると、ファクシミリで国際収支統計が送られてくる日本銀行のサービスは画期的であった。

今や、国際機関や官公庁から公表される統計は、インターネット経由で誰でも容易に、タイムリーに入手できる。データベンダーも整備されて、入手方法が書面に限られていたかつてと比べて、格段に使い勝手が向上した。国勢調査などでは個人情報がわからないようにした上で、オーダーメード集計を依頼することも可能である。

毎月勤労統計の調査方法の不正が問題となっているが、国の統計職員数は、2009年度から2018年度の10年間でおよそ半分になって、統計部局がコスト削減の対象になった可能性もある(※1)。米国でも連邦政府の一部機関が閉鎖されたことで、商務省や財務省が管轄する統計の公表が遅れた。米中貿易摩擦のさなかに貿易統計やGDP統計の公表が遅れたのである。統計情報は、何かを判断するモノサシ(基準)であり、統計データが信頼できない、公表されないことは由々しき事態である。

だが捕捉されていない情報もまだまだ多く、例えばリーマン・ショック時に証券化商品に関する定量的な情報は限定的にしか得られなかった。問題の所在と大きさがはっきりせず、市場参加者がますます疑心暗鬼を生じて市場の動揺を大きなものとした。アジア通貨危機やリーマン・ショックなどに際し、市場動向を判断するための情報が不足していることが認識され、リスクを知る手がかりとして新たな統計の整備が国際的に進められてきた。既存統計についても、GDP統計には、知的財産の情報が盛り込まれるようになり、シェアリングエコノミーの動向も捕捉しようと、統計の精緻化が検討されている。新たな統計が増え、既存の統計も作成方法や内訳項目などが変化し続けているのだ。

統計の利用に際しては、注意すべき点がある。例えば、金融市場や株式市場は統計が公表された速報値を見てリアルタイムに変化するが、マクロ統計は一般に後から遡及改定が行われ、改定後の確定値は市場が当初織り込んだ数値とは異なることが多い。最近は、ビッグデータやキャッシュレス化に伴う新たな情報の活用も話題となるなかで、統計情報の重要性が認識されるようになってきているように思う。統計を巡る最近の諸問題を契機として、その使われ方の特徴を踏まえつつ統計の価値を再認識し、統計自体が変化し続けていることを理解するべきだろう。

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