MICE産業の地方における可能性

~インバウンド産業振興の足掛かりにできるか~

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2019年02月12日

  • 調査本部 渡邊 吾有子

東京オリンピック・パラリンピックを翌年に控え、2025年の国際博覧会には大阪が開催地として選出された。スポーツイベントでは、2019年にラグビーワールドカップ、2021年にワールドマスターズゲームズが日本で開催される。国際的なイベントの日本開催が続々と控えるなか、国内のインバウンド産業の盛り上がりも期待される。そこで、インバウンド産業の一つであるMICE(マイス)産業についてご紹介したい。

MICEとは「Meeting(企業による会議)」、「Incentive Travel(報奨・研修旅行)」、「Convention(企業、国際機関等による国際会議)」、「Event / Exhibition(イベントや展示会)」の頭文字をとった造語だ。MICE誘致による経済効果は、一般の観光客誘致による経済効果よりも大きいといわれている。また、その地域を知らない外国人訪問客を、MICEを通じて呼び込むこともできる。このような特徴から、インバウンド戦略の一つとしてMICEに注目する企業や自治体が徐々に増加している。

さて、MICEの経済効果の高さには、二つのポイントがある。

一つ目が、MICE開催にあたっての直接的な事業費用である。大半のMICEは数日間にわたって開催されるが、期間中のイベント会場や宿泊施設はもちろん、外食産業、交通機関、運輸業など、様々な産業への経済波及効果が望める。

二つ目が、MICE参加者による消費である。MICE参加者には、①航空券代や宿泊費などは自腹でないことが多いため懐に余裕がある、②①以外の支出にも経費を使えることがある、などの特徴があり、平均的な観光客よりも消費額が大きい傾向があるという。

MICEの経済効果については観光庁が試算結果を公表しており、「ビジネス目的を含む訪日外国人」の平均一人当たり旅行中支出(2016年)が15.6万円であるのに対し、「MICE参加者」による一人当たり総消費額(同)は約34万円と倍以上であった。条件設定が異なるため単純比較はできないものの、MICEの経済効果の大きさには注目する価値がある。

では、日本におけるMICE産業の規模を見ると、2017年のMICE開催件数は414件であった。この開催件数は図表に示した通り、国別世界ランキングで7位、アジア・太平洋地域では1位と、なかなかの好成績である。

一方で、国内に注目すると、MICE開催地は東京、京都、名古屋など大都市圏に集中している。MICE開催における施設の充実度や交通の便などに鑑みれば当然の結果ではあるものの、インバウンド産業のさらなる拡大を目指すならば、比較的観光客の少ない地方でMICEを開催し、地方産業を活性化させることに意義があるのではないだろうか。

そこで、地方でのMICE開催を促す要素の一つとして「ユニークベニュー」を挙げたい。「ユニークベニュー」とは、本来、会議室や研修室としての利用を想定されていない会場を指す。歴史的建築物や美術館、庭園などをMICE会場(ユニークベニュー)として利用することで、他国や国内の他地域との差別化を図れるうえ、施設自体の認知度向上にもつなげられる。

すでに一部の自治体は、寺社仏閣や商家の邸宅、博物館等を利用したMICEを開催している。MICEの開催実績があまりなくとも、ユニークベニューになり得る会場を持つ自治体は少なくないだろう。

MICEを通じてその地域の魅力を参加者へ伝えることができれば、観光地としてのアピールにもつながる。これまでMICE開催が盛んでなかった地域においても、自治体や企業のMICE産業参入の検討余地はあるのではないだろうか。これからインバウンド産業を振興させたいと考える地方にとって、MICE産業は有効な手段の一つとなる可能性を持つだろう。

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