取締役の個人別報酬の代表取締役再一任を巡る対話

~総務部長Bの憂鬱はつづく~

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2019年01月24日

研究者Aと上場会社総務部長Bの対話

A 法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会が「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」(要綱案)を取りまとめた(※1)。順調にいけば、今年の通常国会に会社法改正法案が提出されることになりそうだ。

B 早ければ、来年の定時株主総会での対応が必要になりそうだな。去年のコーポレートガバナンス・コード(CGコード)改訂に続いて、上場会社としては大変だよ。ただ、要綱案の内容を見て、少しホッとしている。

A どの部分を見て、ホッとしたのだ?

B 「取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定の再一任」だよ。
「株主総会決議がない限り、取締役の個人別報酬を代表取締役が決められなくなります」なんて、どうやって社長に説明しようか、本当に困っていたのだ。要綱案から項目自体が削られて、心底、ホッとしたよ。

A 申し訳ないが、再一任の問題は、そう簡単には終わらないと思うぞ。

B 脅かさないでくれよ。

A 脅かしじゃないさ。
要綱案は取りまとめられたが、国会審議はこれからだ。某社の事案を受けて、役員報酬の問題に対する社会の注目度は高い。もしも、野党議員の立場だとしたら、会社法改正法案をあっさり通過させたいと思うか?

B おそらく、某社の事案に関連づけて、「再一任」に関する項目が削られた理由を政府に問い質すだろうな。

A 仮に、法案が国会を無事通過したとしても、安心するのはまだ早い。
取締役会による「報酬等の決定方針」の決定が、一定の監査役会設置会社や監査等委員会設置会社にも義務付けられることになる。

B それなら大丈夫だ。
CGコード対応で、既に方針は決定済みだ。

A その方針は「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針」と呼べる内容か?

B 呼べるような、呼べないような…

A 「取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針」には「代表取締役に決定を再一任するかどうか等を含む」ものと説明されている(※2)。そして、決定された方針は、「取締役会の決議による報酬等の決定の委任に関する事項」などとともに事業報告で開示される。

B 言いたいことはだいたいわかったよ。
事業報告で開示される以上、説明責任を十分に果たさないまま、代表取締役に再一任していると判断されれば、株主が報酬議案に反対する可能性が高い。

A 議決権行使助言会社も反対推奨するかもね。
さらに、再一任された代表取締役社長に問題あり、と判断されれば、報酬議案だけではなく、社長の取締役選任議案にも反対するかもしれないぞ。そうなると、社長に呼び出されて「なぜ、俺の選任議案に反対が多いのだ?」とご下問を受けることになる。

B 勘弁してくれよ。
ところで「代表取締役に再一任しているが、報酬諮問委員会できちんとチェックしている」という説明は通じるだろうか?

A 勤務先でも報酬諮問委員会を設置したのか?

B 去年のCGコード改訂を受けて設置したよ。

A そうだな。最終的には、その報酬諮問委員会の実態次第だろうな。

B 実態というと、独立社外取締役の人数や割合のことか?

A それも大事だが、活動内容も問われるだろう。
取締役報酬に関しては、金融商品取引法上の有価証券報告書における開示拡充も進められている。昨年11月に公表された内閣府令改正案(※3)では、「役員の報酬等の額の決定過程における、提出会社の取締役会及び委員会等の活動内容」の開示を求めている。開示が不十分なら「お飾り」と見られても文句は言えないだろう。
こちらは今3月期の有価証券報告書からの適用が予定されている。

B 「仏作って魂入れず」ではダメということか。
現場は大変だが、納得性の高い取締役報酬のあり方を考え直す良い機会にはなりそうだ。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳