お正月に忍び寄る気候変動の影響

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2019年01月18日

  • 河口 真理子

気が付くと2019年も半月過ぎてしまった。首都圏ではお正月から穏やかな天気が続き、雨や雪にたたられることがある成人式も今年は晴天に恵まれ、晴天のもと晴れ着姿の女性が街を華やかに飾って穏やかに過ぎていった。そういう状況なので感じづらいことだが、気候変動の影響はお正月にも忍び寄ってきている。

残念だったのがお正月の生け花。例年購入している近くの生花店では、松(若松、大王松、五葉松)千両、葉牡丹、雲竜柳などは良いものがないと言われた。「最近異常気象が多いから、松は全般に塩害が出てしまっているし、千両は不作、雲竜柳も勢いのあるものが少ない」と、すまなそうだった。生花店で買った時にはそんなものかと気が付かなかったが、確かに自宅で生けてみると松の先端が茶色く変色しているのが目についたし、千両は水切りして生けてもすぐクッタリしてしまった。茶色い松というのは縁起でもないので早々に取り外してしまった。

通常、生花店ではその時期の生きの良い元気な花材が売られているので、不作でパッとしない花材を買う事態にはならない。しかし正月は定番の花が決まっているので、質が悪くても使うしかなく、すでに気候変動の影響がこんなところに出ているのか~とちょっとドキっとした。またおせちに登場する京野菜のクワイも今年は不作だったのか、おせちを作った友人は非常に高価だったとこぼしていたし、購入した高級おせちにも入ってなかったとクワイ好きの友達は嘆いていた。

1月5日、豊洲の初セリで大間のマグロが史上最高値の3億3,360万円で競り落とされたことは、正月早々景気が良い話題として国内のニュースでは取り上げられたが、海外では絶滅危惧種に驚異的な値段をつけた非常識な振る舞い、と冷ややかに報道されていた。太平洋クロマグロは、温暖化による海水温上昇や乱獲によってもはや絶滅危惧種と世界的には認識されている。同じ日、北海道の新千歳空港は局地的な短時間大雪により空港の除雪が間に合わなくなり欠航が相次ぎ、多くの人が空港で一夜を過ごす羽目となった。

都会に住んでいると、特に気を付けて観察しない限り異常気象の影響を感じずに暮らしていける。野菜や魚、花など生鮮品は季節性があるので多少値段や品ぞろえにある程度の変動があるのは消費者にとっても当たり前のことで、いちいち異常気象などとは考えない。また、小売り業者が必死に安定供給に努めて、産地や品種を変更するなどして、一部の不作地域の影響をカバーし店頭の商品を絶やさないようにしているので問題に気が付かない。しかし、その努力にも限界はある。気候変動による世界的な異常気象が広がる中で、世界各地の産地が被害にあう、あるいは、物流がストップする危険性は増えている。

2018年10月にIPCCが公表した1.5℃特別報告書では、地球の平均気温は産業革命以前からすでに1度上昇し、このままいくと2030年~2052年の間に、気温上昇は1.5℃になると予想した。温暖化は、海面上昇、熱波による健康被害、ゲリラ豪雨などの極端な降雨や干ばつなどの異常気象による農作物への悪影響、洪水などによる都市インフラの破壊などの被害をもたらす。当然生態系にも深刻な被害を与える。1.5℃報告書では例えばサンゴ礁は1.5℃上昇で70-90%消滅する可能性が高いとした。

正月早々暗い話で恐縮だが、首都圏で穏やかな正月を過ごしたからこそ、温暖化対策の重要性を痛感する。来年新しい元号で迎える新年が穏やかで笑顔で迎えられる正月となりますように。

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