注目される高齢者の「意思決定支援」

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2019年01月07日

  • 小林 章子

今年6月から施行される改正消費者契約法では、認知機能が低下した高齢者等を保護する対策が盛り込まれている。例えば、加齢や認知症などで判断力が著しく低下していることにつけこんで結ばせたような契約について、取り消せることが明確になる。
判断力が低下した人を保護する制度である成年後見制度との関係でも見直され、「消費者が成年被後見人の申立てを受けた場合、事業者は直ちに契約を解除できる」というような契約条項は、無効になることとされた。事業者は、契約を継続するかどうかを個別に判断することになる。

また、2018年秋の臨時国会には、成年被後見人等の資格制限について見直す法案が提出された(※1)。現行では、成年被後見人や被保佐人は、公務員や士業、信用金庫や医療法人の役員、貸金業の営業許可等の各制度について、欠格事由とされている。すなわち、成年被後見人になると、そもそもこれらの資格や職業に就くことができないうえ、資格等を失うことになる。法案では、これらの欠格事由を削除したうえで、個別に能力を審査する規定を設けるものとしている。

さらに、今年の通常国会に法案提出が見込まれる会社法改正の要綱案(※2)でも、成年被後見人や被保佐人は、取締役や監査役になることができないとする現行の欠格事由を削除することが盛り込まれた。取締役等の資格によってした行為は、成年被後見人等であることを理由に取り消すことはできないとする規定があわせて設けられ、改正後は、成年被後見人等を取締役等に選任することができ、取締役会の決議の効力などにも影響しないことになる。

以上の見直しは、判断能力が不十分な人を社会生活からいわば排除することで保護する成年後見制度から、自己決定を尊重する「意思決定支援」への転換によって、社会の中で活動することを後押しするものといえる。
わが国は「人生100年」を見据える超高齢化社会を迎えているが、同時に2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症高齢者になるとの推計もある(※3)。社会の大きな部分を占めていく認知症高齢者について、今後、意思決定支援という制度のあり方がますます重要になっていくことは確実だろう。
今後、意思決定支援を中心に法定後見や任意後見を統一的に位置づける「意思決定支援法」を立法すべきという案もあり(※4)、意思決定支援のあり方が注目される。

(※3)内閣府「平成29年版高齢社会白書」
(※4)佐々木育子「成年後見制度から意思決定支援制度へ」論究ジュリスト2018年秋号

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