「冗長化」から考えるBCPの重要性
2018年07月02日
2018年6月18日の午前7時58分ごろ、大阪北部を震源とする震度6弱の地震があり、近畿地方など広い範囲で強い揺れが観測された。筆者はその日の朝に東京から名古屋方面へ出張する仕事があった。地震発生後に運転見合わせとなった東海道新幹線は復旧に時間を要し、結局、当初の予定よりも3時間以上後の新幹線で何とか現地に辿りつくことができた。
地震発生後、関西を拠点に置く企業の復旧に向けた取組みが報じられたが、こうした不測の事態に企業はどう備えておくべきか、事業継続計画(Business Continuity Plan, BCP)の重要性がますます高まっている。
BCPは、自然災害や感染症の拡大、テロの発生、サイバー攻撃などの緊急事態が発生したときに、企業が損害を最小限に抑え、事業の継続や復旧を図るための計画である。帝国データバンクが2018年5月に実施した「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2018)」によれば、BCPを「策定している」企業は全国で14.7%にとどまる。「現在、策定中」「策定を検討している」を合わせても44.9%と半数に満たない。政府は2020年までに大企業でほぼ全ての、中堅企業で50%の策定率を目指しており、地方自治体とともにBCPの策定を促進してきた。企業はその重要性を認識していないわけではないが、策定に必要なノウハウやスキル、人材の不足などにより対応が遅れている。
BCPに関連することとして、IT業界には「冗長化(Redundancy)」という言葉がある。一般的に冗長とは無駄が多くて繰り返しが多いことを意味するが、IT業界では、システムに何らかの障害が発生した場合に備え、サーバーやネットワーク機器等の予備機を平常時からバックアップとして配置し運用する仕組みを意味する。システムがダウンしたときに顧客への影響が大きい基幹系システムや決済系システムであれば、設計段階で冗長化についての検討が必ず行われる。
さらに、IT業界でBCPの策定に際して様々なリスクを洗い出し対応を検討する中では、設計上の不備だけでなく、無駄を発見したり、それによって業務の優先度や標準化を考えるきっかけが得られたりすることもある。システムの仕組み上、複数のシステムの間でデータ連携があり、ある1カ所の障害が他の複数のシステム停止につながるケースも少なくない。そのため、常にシステム全体を俯瞰した上でのリスクや対応を考える。また、業務に携わる人員配置は、可能な限り属人化となることを避け、マニュアル整備に加え情報共有を行い、障害発生時に誰もが同じ対応をできるような体制を整備する。
これはシステム設計の一例であるが、企業経営においても様々な事業や業務を抱える中で、それぞれの業務単体にではなく、組織全体への影響を考慮した業務プロセスやそれに従事する人材の冗長化(人を増やすという意味ではなく、どの社員でも緊急時に必要な対応をとれる体制を構築すること)を図ることが必要である。一見コスト増になるようだが、BCPの検討を行うことが業務の改善や効率化などにつながる可能性もあろう。
システムの世界では当然のように考える「冗長化」。どの地域でも様々な脅威が少なからず存在する中で、それらへの対応を平時から行っておくことは企業の持続可能性を高める。企業経営におけるBCPの重要性が強く認識され、策定に向けた動きが広がることを期待したい。
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