就職戦線異状なし? ~大学生の就活に思うこと~

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2018年01月30日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主席コンサルタント 橋本 直彦

いよいよ、3月1日から企業の新卒採用に関する広報活動(会社説明会等)が開始され、本格的に就活がスタートする。今年も多くの企業が選考活動開始となる6月1日以降、順次内定(内々定)を出していくとみられる。


筆者も20年以上前に人事部員として新卒の採用に携わった経験があるが、当時は“就活”などという言葉は存在せず、企業業績の低迷を受けて「就職氷河期」等、暗いイメージの言葉が目についた。ここ数年は好景気を反映して高い内定率を示しており、いわゆる学生の「売り手市場」が続いている。(図表1)

就職内定率の推移(大学生)

就活のスケジュールをめぐっては、経団連の指針で2016年(平成28年)卒から、会社説明会・セミナー等の「広報活動」が3月、面接などの「選考活動」が8月の解禁となった。しかし、就活の長期化による学業への悪影響を懸念する声が高まり、2017年(平成29年)卒から説明会は3月に据え置く一方、選考の解禁は6月に前倒しされた。2019年(平成31年)卒の就活も昨年2018年(平成30年)卒と同様のスケジュールで進むことになる。(図表2) 様々な変遷を経たが、結局は、昔の「就職協定」で一律かつ厳格に学生と企業の接触を制限していた時代のスケジュールに戻った形になった。

就職活動スケジュールの変遷

多くの学生は、医師や看護師等は別にして、在学中に修める学問と直結しない仕事に就くことになる。特に民間企業への就職を希望する文科系学生には顕著である。


この前提で、学生たちは就活に十分な準備ができているかと言えば、そうでもない。そもそも、会社を見る“視野”が狭いので有名企業ばかりに注目が集まる一方で、時間の制約もあるため、ターゲット企業を納得いくまで調べ訪問した上で会社を選べる学生は少ない。現実的には、企業の内定出しまでの選考プロセスに翻弄されながら、学生各自がどのタイミングで納得するかが就活のエンディングである。とすれば、学生ができる限り効率良く、多くの企業について見聞するチャンスを作ってあげたいものである。


大切なことは、①スケジュールを安易に変更しないこと、②企業の採用担当者のスキルアップを図ること、③選考手法はシンプルを旨とし、いたずらに面接回数等で学生を拘束しないこと、である。


①は、説明会解禁、選考解禁の日程が予め定まっていれば学生も企業も対応しやすいが、毎年のように変わると疑心暗鬼が生まれ、フライング気味に日程が前倒しになり、結果として学生時代の貴重な時間の多くを就活に費やすことになる。学生側、企業側双方の負担を考慮すれば現行スケジュールが落としどころなのだろう。


②は、企業はしっかりとした採用戦略・体制を構築すべきということである。一人の新卒を採用することは企業にとって数億円の買い物であり、投資である。それを担う組織づくり等は会社の責務として万全を期すべきである。より工夫された採用手法やスタッフ養成のために、我々のようなコンサルティング・ファームのサポートを受ける企業も増えてきている。


③は、学生と企業の双方Win-Winの関係で対峙すべきということである。今は学生の「売り手市場」とは言え、就活において採用する側の企業が優位な立場にあることに変わりはない。人気企業なら猶のことである。企業は、いたずらに面接等を重ねて学生を時間的に拘束することは止めて、シンプルかつ公正・迅速な選考と結果報告を行うべきである。学生の他の企業へのチャレンジを妨げてはいけない。


いずれにしても、学生の就職内定率が高いということは、日本経済・企業活動の勢いを反映しており、喜ばしい状況である。人口減少が叫ばれる中、新たな企業人を温かく迎えたいものである。学生の皆さんがより多くの企業に触れて、納得のいく会社選びができることを願いたい。

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橋本 直彦
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