事業継続から危機管理と地域貢献への深化

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2016年12月13日

  • コンサルティング本部 顧問 三好 勝則

災害などの突発的な事態が発生したときに、事業を継続させるという明確な目的を持って行動することは、顧客や投資家の信頼を得ることであり、企業価値を高めることとなる。政府において2005年から事業継続ガイドライン(※1)を示して普及促進を図るなど、事業継続計画(BCP)の策定が推奨されてきた。

2015年度の内閣府調査(※2)によれば、大企業(定義は業種によって異なる)では、策定済みが6割を超えている。知らなかったという回答は2007年度の22.8%から0.8%へと大きく減少しており、周知と取り組みが進んでいる。中小企業を含む調査を行っている東京商工会議所によれば、BCP策定済みは全体の4分の1にとどまり、従業員規模が小さいほど低くなっている。重要業務が外的、内的要因により停止や中断を余儀なくされる事態を防ぐために、事業活動の要素を資源として把握してBCPの作成を含めた事業継続マネジメント(BCM) を行うことは、全ての事業者、組織にとって必要不可欠になってきた。

事業継続と似ているが異なる取組みとして、危機管理がある。組織または国家の存立を脅かす事態に対して、臨機応変に対応すること(危機対応)を中心とする概念である。危機管理は1962年に勃発したキューバ危機に際してのアメリカ政府の対応から本格化したと言われ、組織体制、責任、行動基準、指揮命令を明確にしたうえで、状況の変化に応じた弾力的な対応が求められる。万が一のときの代行・代替などを準備することが欠かせない。

映画「シン・ゴジラ」に登場する対策本部の立川予備施設は、1988年に設置された。国会や中央省庁のある都心から30km離れた立川広域防災基地にあり、総理大臣官邸、霞が関の合同庁舎、防衛省が使用できなくなった場合に、速やかに移動して政府の対策本部として対応することを想定している。1998年に新館が建設され、備蓄も強化された。企業など各組織において、緊急事態が起きたときを想定し、トップの代行順位、指示系統の明確化など、予め備えておくことが重要である。

企業・組織が地域との関係でどのように活動するかを考えることも、必要になっている。企業を襲う突発事態は、地域の他の組織や住民にも降りかかっていることがある。または、企業は無事でも地域で大きな混乱が生じている場合もある。企業はビジネスとしての観点だけでなく、地域の一員として協力して行動することが求められる。

新宿駅周辺防災対策協議会(※3)では約70以上の事業所・団体が参加して、官民の組織と行政が災害時の行動ルール作りを行ってきた。組織は組織で対応する(自助)、地域が連携して対応する(共助)、公的機関が地域を支える(公助)を基本とし、事業所等が主体的に、来街者への対応を含めた基盤づくりを進めてきた。これに基づき、「できる事をできる人がみんなでやる」というコンセプトのもとに行動指針を作成した。

さらに、同協議会では例年、協議をして訓練内容を定め、セミナー(一般向け)と講習会(より専門的なトレーニング)で約6か月前から参加者の事前研修を行ったうえで訓練を実施し、事後検証を行い、翌年の訓練検討に反映させている。このように、訓練についても、参加者をただ募るだけでなく工夫が必要である。

「いつ起こるか分からないから急がない、できれば起こらない方が望ましい。」突発事態について多くの人が抱く意識と行動であろう。

今すぐできることは、組織や地域でのコミュニケーション、風通しを良くして、普段から意思疎通ができるようにしておくことである。そして、日常的な組織づくり、地域づくりに参画する中から突発事態への対応を考えていくことが近道である。

(※1)第3版として2013年に改定され、解説書が2014年に公表されている。
(※2)「平成27年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」内閣府 平成28年3月。実施期間は平成28年(2016年)1月~2月
(※3)2002年設立の「新宿区帰宅困難者対策推進協議会」から改組し、活動内容を拡大している。

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